何度も語ったお話ですみません。
独身だった二十代のころに、日教組全国事務研に出るために滋賀県大津に向かった。会場の近くにあったのがかの有名な雄琴温泉。なにしろ開会の挨拶で主催者が
「誘惑の多い土地だとお聞きしております」
とご披露するくらいメジャー。会場がどっと沸くくらい有名。当時、日本一と言われたソープ街だったのである。
もちろんわたしはまじめに研修していたのでそんなところには入らなかったが、いやほんとに入らなかったのだが(もちろん大事なことなので二度言いました)、しかしその場を見学するくらいはいいだろう、と誰かが言い出し(わたしではありません……確か)、タクシーを飛ばして、なんだかよくわからないけれども竹林がつづく道を雄琴へ向かった。
おー。そういうお店がいっぱいありますねえ!
タクシーの運転手がやわらかい関西弁で
「ほら、あれが近衛十四郎さんのやってはったお店です」
「へー」
この感激はわたしの世代が下限だろうか。近衛十四郎といえば、かつて東映時代劇で活躍し、のちに「素浪人月影兵庫」「素浪人花山大吉」(NET……現テレ朝)で絶大な人気を誇ったスターだ。そして彼の長男が松方弘樹であり、次男が目黒祐樹なのである。
松方弘樹の評伝であるこの「無冠の男」でも、そのソープの件は語られている。
「近衛さん(松方は父のことをこう呼ぶ)は十六歳から演劇の世界しか知りませんから、騙されっぱなしでした。後年になって、雄琴でソープランド(「千姫」)を僕と一緒に経営したり、亀岡で釣り堀を経営したりしましたが、いつも騙されていました。」
……松方も共同経営者だったのか!
さてこの「無冠の男」(講談社)は、かつて松方の代表作である「北陸代理戦争」の背景を徹底的にルポした伊藤彰彦による聞き書きである。これがめっぽう面白い。信じられないようなエピソードもてんこ盛り。以下次号。
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