沢木耕太郎の初の国内旅行エッセイ集「旅のつばくろ」は、なんと遊佐町からスタートする。おそらく宿泊したのは遊楽里(ゆらり)だろうが、ほぼ絶賛状態でたいそううれしかった。
その沢木が、自分の本領であるボクシングを題材にした小説を書き上げた。で、うれしいことに遊佐がまた登場するんですよ。主人公とともに、かつて四天王と呼ばれ、しかし現在は落魄しているボクサーの住みかとして。四十年ぶりにアメリカから日本に帰ってきた主人公は、酒田に宿泊して遊佐に向かっている。
「ホテルインという、とても不思議な名前のホテルだった」
よく考えたら確かに不思議な名前だ(笑)。酒田に実在するんですけどね。
さあ映画。ボクサーとしての夢が破れた主人公は、アメリカでホテルを経営するなど、ある程度の成功を収めている。しかし帰国するとむかしの仲間たちは(遊佐にいる人物=片岡鶴太郎も含めて)すべてきつい立場にいる。そこへ、才能あふれる若者が登場し、彼らにむかしの夢を思い出させる……
佐藤浩市がいいのはもう当然のこととして、若きボクサーふたりがまたいいんですよ。横浜流星と窪田正孝。
身体を徹底的に絞り切り、リング上でのファイトもリアル。佐藤の持つクロスカウンターなどの技術を貪欲に吸収する流星と、「愛にイナズマ」などの、天使のような役柄から一転、尊大で、流星の試合をスマホに熱中して無視するチャンピオンとしての窪田正孝がすばらしい。
原作では一種の超能力者として描かれたヒロインに橋本環奈、ボクシングジムの女性会長(誰だって「あしたのジョー」の白木葉子を想起する)に山口智子など女優陣も豪華。なにしろ遺影だけしか登場しない哀川翔の恋人が片岡礼子だし。
監督は「ヘヴンズストーリー」「菊とギロチン」の瀬々敬久。みごとな娯楽作品に仕上がっています。
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