鶴岡まちなかキネマで鑑賞。夜遅くに帰ったので、妻と娘は
「お父さんは“会議か映画ね”」
とうなずきあっていたそうだ。ああそうざんす。オレの人生は会議か映画。
原題はUP IN THE AIR。年間322日も出張に出ているリストラ宣告人(いちおう、転職サービスということにはなっている)のライアン(ジョージ・クルーニー)が、まるで飛行機をわが家のように感じていることと(→裏技に裏技を重ねてスマートに搭乗手続きをするシーンは泣ける)、家族や結婚といった“重荷”から逃げまくって宙ぶらりんであることのダブルミーニングになっている。
この作品にはそんなひっかけがあきれるほど仕込んであり、単純な家族礼賛映画にはなっていない。たとえば……
・人生の目的がマイルをためること(1000万マイル!)であるライアンの激しい移動と、彼の妹夫婦の『パネルを利用した、各地に行ったつもりの写真』の乱舞が二重写しになるうまさ。
・ライアンにとって都合のいい、セックスだけの関係のアレックスとのダンスに流れるのはシックGOOD TIMES。大学を首席で卒業し、しかし彼氏を追いかけてリストラ稼業に従事する新人ナタリーがカラオケで歌うのはシンディ・ローパーTIME AFTER TIME。次第にとまどいを見せ始める主人公にかぶるのはグラハム・ナッシュのBE YOURSELF。うまい。
・リストラ宣告にみごとな技を見せることから、家族関係から逃避してきたライアン自身が結婚にしりごみする妹の婚約者を説得させられる皮肉。完璧な論理で説得に成功した(わたしまで思わず「結婚ってすばらしい!」と誤解しそうになった)ライアンに姉がひとこと「これで、ようやく家族になれたわね(Welcome home.)」。
……ほんとうにリストラされた経験をもつ人たちを起用しただけあって(「スパイダーマン」の編集長役のオッサンもそうだったのかなあ)、理不尽な宣告へのリアクションはまさしくリアル。
実は陰鬱なお話を、ここまでユーモアたっぷりに語るかジェイソン・ライトマン。ジョージ・クルーニーのラストのつぶやきは、上質の現代小説を読みおえたかのよう。傑作だ。
いやしかし、昼間の国内便のトイレの中でセックスをしたことのある女(笑)、アレックスを演じたヴェラ・ファーミガにはびっくり。こんなすごい女優がいたのかっ!必見!ってもうすぐ上映は終わっちゃうけどっ。