Vol.28「祝砲の挽歌」はこちら。
邦題は船上で殺されたシンガーのことを意味しているが、原題はTroubled Water。
とくればどうしてもサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」Bridge Over Troubled Waterを連想させる。かたや「荒れた海に架かる橋のように、ぼくは身を横たえよう」とアート・ガーファンクルが愛を歌い上げるのに対して、コロンボの場合は文字どおり「トラブル続出の海」なので皮肉がきいている。
今回の犯人は、シンガーを愛人にしている中古車ディーラー。演ずるのはロバート・ボーン。妻に関係をばらすと主張する愛人(ステージでは淡麗生のCMソングでおなじみ♪ボーラーレ♪をセクシーに歌ってました)を彼女の部屋で銃殺する。ナポレオン・ソロだったわりにはボーンの手際があまりよくないのはご愛敬。
コロンボは懸賞に当選してアカプルコへの船旅をゲット。しかし彼のことだからこうして事件にまきこまれてしまう。同じ手を「古畑任三郎」では「笑うカンガルー」の回でやってましたね。
船に弱いコロンボ(「ホリスター将軍のコレクション」参照)にとって、この船旅が最初の経験。しかし、いつものロス市警の応援が望めない、孤立無援の逆境でコロンボはむしろ犯人逮捕への意欲をむき出しにして船酔いを吹き飛ばす。
この事件のキーポイントは、まったくの密室であるかのように見える汽船(コロンボはボートと呼んで船長にたしなめられる)が、実は証拠物件を隠滅するに最適の場所なのに(まわりはすべて海なのだから)、なぜ犯人は最大の証拠である拳銃を海に捨てなかったか、だ。そこに見える作為を感じとって、コロンボは犯人に罠をしかける。手袋を使ったこの罠はおみごとだった。
学校事務職員にとっては、年末調整のないアメリカの事情がうかがえて興味深い。犯人に仕立てられるミュージシャンが、拳銃を買った領収書を保存していたことにコロンボだけが不審に思う。
「おかしいでしょう?他の領収書はみんな必要経費で落とせるものばっかりだ。」
日本のサラリーマンもこのくらいはやってくれないと……。
Vol.30「ビデオテープの証言」につづく。