わたしの世代にとって、日活といえばすなわちロマンポルノだ。他には、子どものころに乗ったバスに「戦争と人間」のポスターが貼ってあったのをかろうじておぼえているぐらいで、メインはやっぱりロマンポルノ。
しかし全盛期には未成年だったので、なかなか見ることができず、徒花のように咲いた「嗚呼!!花の応援団」ぐらいが日活封切館体験。その反動で東京に出てからは見て見て見まくりました。
当時のスターは、谷ナオミが盛りを過ぎていたので緊縛ものは片桐夕子、高倉美貴、人妻ものは宮下順子、かわい子ちゃん(死語)系は泉じゅんだろうか。
その一方でロマンポルノは猥褻だという裁判が進行していて、斎藤正治というライターが、作り手を支援するルポをキネマ旬報に連載。これはすばらしい内容だった。参考人だった女優の田中真理は一種のカリスマに当時なっていたっけ。
ところが、そのルポでどうしても不思議なことがあった。表現の自由を求めて監督や女優が堂々と論陣を張っているのに、肝心の会社が及び腰なのである。「猥褻なぜ悪い」と開き直ってはくれなかったのだ。
これはどうしたことだろうと思ったら、当時の日活は日本共産党支持者による労働組合が実権を握っており、代々木の体質として不健康なポルノを(飯の種なのに)内心では否定していたのである。このねじれは複雑。
この書は、その労組幹部の回顧録。のちに管理職となった松平は、文句なくトップだった根本悌二とともに日活の盛衰の渦中にいた。映画という夢を生産しながら、後半生は金策の連続。なるほど高校生には理解できない世界だったわけだ。
最後に、わたしにとってのロマンポルノベスト3を紹介しておきましょう。
「ラブホテル」(監督相米慎二 原作石井隆 主演速水典子)
「天使のはらわた 赤い教室」(監督曽根中生 原作石井隆 主演水原ゆう紀)
これだけの傑作がそろっていたのだ。日活にはもっと胸をはってほしかったなあ。
日活 昭和青春記 日本でもっとも長い歴史をもつ映画会社の興亡史 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:2012-08-27 |