事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「日活昭和青春記」 松本平著 WAVE出版

2013-10-21 | 映画

Lovehotelimg01 わたしの世代にとって、日活といえばすなわちロマンポルノだ。他には、子どものころに乗ったバスに「戦争と人間」のポスターが貼ってあったのをかろうじておぼえているぐらいで、メインはやっぱりロマンポルノ。

しかし全盛期には未成年だったので、なかなか見ることができず、徒花のように咲いた「嗚呼!!花の応援団」ぐらいが日活封切館体験。その反動で東京に出てからは見て見て見まくりました。

当時のスターは、谷ナオミが盛りを過ぎていたので緊縛ものは片桐夕子、高倉美貴、人妻ものは宮下順子、かわい子ちゃん(死語)系は泉じゅんだろうか。

その一方でロマンポルノは猥褻だという裁判が進行していて、斎藤正治というライターが、作り手を支援するルポをキネマ旬報に連載。これはすばらしい内容だった。参考人だった女優の田中真理は一種のカリスマに当時なっていたっけ。

ところが、そのルポでどうしても不思議なことがあった。表現の自由を求めて監督や女優が堂々と論陣を張っているのに、肝心の会社が及び腰なのである。「猥褻なぜ悪い」と開き直ってはくれなかったのだ。

これはどうしたことだろうと思ったら、当時の日活は日本共産党支持者による労働組合が実権を握っており、代々木の体質として不健康なポルノを(飯の種なのに)内心では否定していたのである。このねじれは複雑。

この書は、その労組幹部の回顧録。のちに管理職となった松平は、文句なくトップだった根本悌二とともに日活の盛衰の渦中にいた。映画という夢を生産しながら、後半生は金策の連続。なるほど高校生には理解できない世界だったわけだ。

最後に、わたしにとってのロマンポルノベスト3を紹介しておきましょう。

赫い髪の女」(監督神代辰巳 原作中上健次 主演宮下順子)

「ラブホテル」(監督相米慎二 原作石井隆 主演速水典子)

「天使のはらわた 赤い教室」(監督曽根中生 原作石井隆 主演水原ゆう紀)

これだけの傑作がそろっていたのだ。日活にはもっと胸をはってほしかったなあ。

日活 昭和青春記 日本でもっとも長い歴史をもつ映画会社の興亡史 日活 昭和青春記 日本でもっとも長い歴史をもつ映画会社の興亡史
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-08-27

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八重の桜~第四十二話「襄と行く会津」

2013-10-20 | テレビ番組

Tanimuramitsukiimg01 第四十一話「覚馬の娘」はこちら

前回の視聴率は12.4%と微動だにしなかった。もっと下がると思えば維持。やっぱり視聴率はよくわからない。

今回は、板垣退助襲撃事件で幕を上げるものの、ほぼ完璧な山本家ホームドラマ。伝道旅行で会津を再び訪れる八重。同行するのは襄、みね、そしてみねの夫の伊勢。覚馬のもうひとりの娘である久栄は、時栄に向かって「どうしてお父様は会津に行かないの?」と無邪気に訊ねる。耐え続ける谷村美月は、のちの展開を予想させるように美しい。

まるで総集編のように会津メモリーが怒涛のように放出される。やはり八重には会津が似合う。とどめにうら(長谷川京子)とみね、八重の再会。

「お母様、うちへいっしょに帰ろう」

と迫るみね。微笑みながらもうひとりの母親を大事にしなさいと諭す母。ハンカチ三枚ご用意を、な展開。母と娘の再会は、残酷でもあり、幸福でもある。

行けるはずのない京都に誘う娘の無邪気さに、母親は娘の生活が充たされていることを悟る。長谷川京子が、少しやつれてはいるけれど、美しさを失っていない母親を好演。いい女優になってきたなあ。

会津の思い出のなかには、前夫である尚之助のものも当然あるわけで、そのことを夫に述懐する八重の天真爛漫さは、普通の夫婦なら微妙だけれど、新島襄は一種の天使のように描かれているのでセーフ。むしろ、「会津は必ず甦る」と宣言するあたりがさすが天使。

「今日は、泣かされたわねぇ。あたしね、尚之助さんが出てくるだけで泣けてくるの」

と妻はティッシュ使い放題。簡単な人。三益愛子以来、母子ものは日本のドラマの王道なので今回の視聴率は13%超と読みました。そうです、わたしも今回は泣かされてしまったので。

第四十三話「鹿鳴館の華」につづく。山川捨松再登場!

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明細書を見ろ!2013年10月号~人事委員会

2013-10-18 | 明細書を見ろ!(事務だより)

Shazainoohsamaimg03 2013年9月号~「削減スタート」はこちら

県庁の15階に、その部屋はあります。なかでスタッフがどんな仕事をしているかといえば、県職員の採用や昇任について統括するという、なんとなく仲良くしたくなる業務ですが、彼らにはもっと地味ながら大きな仕事があります。それは山形県の民間給与の実態を調査し、県職員の給与と比較し“勧告”するというもの。それがこの部屋の住人「人事委員会」の仕事です。

県職員給与とボーナス、3年続け据え置き 県人事委が報告
2013年10月08日  山形新聞

2013年度の県職員給与について、県人事委員会(安孫子俊彦委員長)は7日、吉村美栄子知事と鈴木正法県議会議長に対し、月例給(月給)と期末・勤勉手当(ボーナス)は改定せず、据え置くのが適当と報告した。ともに県内民間事業所とほぼ均衡しているため。県人事委は11年度、12年度と月給、ボーナスとも据え置きとしており、3年続けて両方の改定を求めないのは初めて。

企業規模と事業所規模が50人以上の県内518事業所のうち、無作為に154事業所を抽出した職種別民間給与実態調査で、今年4月の給与は37万7517円だった。県一般行政職(43.8歳)は37万7397円(特例条例で管理職手当を18%カットした後は37万6157円)で、格差は120円にとどまった。

民間企業が昨年8月から今年7月までの1年間に支給したボーナスの月数は3.73カ月分。県は3.75カ月分で、格差は0.02カ月だった。こうした実態を踏まえ、県人事委は13年度の県職員の月給とボーナスについて「改定を行わないことが適当」とし、勧告に至らない報告にとどめた。

国の要請に応じ、今年9月から県が実施している職員給与の減額については「給与勧告制度の趣旨と異なるもので、14年4月以降の給与については勧告に基づく本来の水準が確保されることを強く望む」とした。

06年度から国に準じて行った昇級抑制に関しては、国にならった回復措置を講じるよう勧告した。

報告と勧告を受け、吉村知事は「勧告の趣旨を尊重し、国と他県の取り扱い、厳しい財政事情などを総合的に勘案し、適切に対処する」と述べた。

……ちなみに、この安孫子委員長は弁護士。人事委員会は三名で構成されていて、他のふたりはそれぞれ元県職員、元小学校長が就いています。もちろんこの人たちが民間給与を調べているわけではなくて、県職員であるスタッフが地道な調査をやっているのでしょう。

今回の勧告には、例年のものとは歴然と違っている部分があります。9月から始まったこの減額を来年の4月にはやめろと言っている点です。

それはそうでしょう。一生懸命に民間の給与を調べ、県職員の給与はどうあるべきかをまとめ上げたそのときには、全然ちがうルールで既に県職員の給与が減額されていたのですから。存在価値を否定されたようなものですから脱力もするでしょうし怒りもするはずです。「強く望む」という文言は、あそことしては血の叫びでしょう。

調査対象事業所の範囲を微妙に変更していたり、どうにも120円の差という数字は納得しがたいのですが、おぼえておいた方がいい勧告もいくつか。

・現給保障については、今回も廃止を“検討”という表現に抑えられた。(国は来年3月に廃止予定)

・平成26年4月1日の時点で45才未満の職員には(昇給を抑制されてきた過去があるので)号給を“調整”

・定年延長、あるいは再任用については及び腰な文言になっている。

……さあ、来年の4月1日に、わたしたちの給与はどうなっているでしょうか。心配。

画像は「謝罪の王様」(2013 東宝=日本テレビ)
主演:阿部サダヲ、竹野内豊、井上真央

「あまちゃん」が終わって呆然としている層が映画館に駆けつけたからか大ヒット。宮藤官九郎の脚本はあいかわらず絶好調でした。

「謝罪の極意はBe 土下座(be together)だよ!」

と阿部が力説しても、仏頂面の井上真央が

「それ、Doじゃない?」とあっさり。

「何言ってんだアキ。夏バッパの言ったこと聞いてなかったんか?」

「だいたい聞いてだ。ようするに気にするなって意味だべ!」に匹敵(笑)

2013年11月号~総務部長につづく

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「資金源強奪」 (1975 東映)

2013-10-17 | 邦画

66d95d2fbd12f85acedfd21f6676e646_vi 高校生のころに東映やくざ映画の洗礼を受けたわたしは、しかし「資金源強奪」の“やくざ映画らしくない”部分にやられてしまった。うわあ深作欣二ってすげえ、と。

1975年に封切られたこの作品は、深作にとってどんな時期か調べてみた。前年に「仁義なき戦い」シリーズを完結させ、翌年は「新仁義なき戦い 組長の首」(アンヌ隊員だったひし美ゆり子がそんなに脱がなくても!とショックを受けました)、「新仁義なき戦い 組長最後の日」を会社に命ぜられて撮り、あの名作「仁義の墓場」「県警対組織暴力」を連発。

ここでへとへとになった深作は、開き直って怪作「資金源強奪」「暴走パニック 大激突」をつづけざまに発表したのである。「資金源~」の場合、あまりに会社が理不尽なので「ふかさくきんじ」名で撮っている。ふざけんなよ、というわけだ。もっとも、客はこれをギャグとうけとって大喜びだったんだけれども。

高田宏治の脚本も、尺が短いものだからタイトに決まっている。賭場のあがりを強奪する手段も(東映にしてはめずらしく)ひねりがあったし、そこからおしゃれなラストまで、悪徳刑事との丁々発止がつづくなど、肌合いとしてはドナルド・E・ウェストレイクのドートマンダーシリーズのよう。

出演は、強奪犯3人に、知能担当北大路欣也、爆弾担当川谷拓三、貧乏担当(笑)室田日出男という泣かせるキャスティング。愛人にマンションを“買ってやらなければならない”悪徳刑事に梅宮辰夫、強奪犯よりもよほどたちが悪い組長たちに安部徹、天津敏、男たちに振り回されるように見えて……な女性たちに太地喜和子、小泉洋子、芹明香と盤石。

奪われた金を親分たちが水増し申告したために二転三転する展開と、いまはみんな大御所になっているか鬼籍に入っているキャストの、若くはつらつとした動きが気持ちいい快作&怪作。観終わると気持ちが軽くなること確実。もっとも、作った方は心底へとへとだったわけですけどね。

Shikingengodatsuimg02

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「許されざる者」 (2013 WB)

2013-10-15 | 邦画

Vj5wqruavihy18s16hvbdfhvhvoh3j4c クリント・イーストウッドの西部劇「許されざる者」を日本でリメイク。脚本と監督は「69 sixty nine」「フラガール」「悪人」と傑作連発の李相日(り・さんいる)。主演は渡辺謙、共演に佐藤浩市と柄本明。これで期待するなという方が無理。 

でもちょっと心配もしていた。李の作品はどうも“語りすぎる”“わかりやすすぎる”部分があるので、無表情に許されざる行為を完遂するイーストウッド映画とは相性がよくないのではと。

その心配は半分当たり、半分は杞憂だった。登場人物のセリフがどうにもストレートでこなれていないので、ここは背中で語ってほしかった、という場面がいくつかある(柄本明との別れのシーンなど)。逆に、娼婦を痛めつけた男たちを主人公が殺しに行くきっかけに、妙な理屈をつけることなく、貧乏に耐えかねてとシンプルなのはよかった。

なにより、時代がオリジナルといっしょなのがいい。アメリカの西部開拓時代と、日本の明治の色彩がきっちりシンクロしている。これは大河ドラマとかを見ていると歴然で、南北戦争終結によって、大量に余った兵器が幕末に日本に流れこむなど日米の歴史は当時からちゃんとつながっています。

また、アメリカに人種差別があれば、こちらにもアイヌ差別が存在するという意味でもシンクロ。在日三世である李にとって、ここはどうしても描かなければならなかったのだろう。

役者の演技はみなすばらしいが(高見盛みたいな若いもんが出ていると思ったら久しぶりの柳楽優弥だったのはびっくり)、ほんとうの主役は北海道の風景だろう。空気が冷えていて、手つかずな、そして酷薄な環境であることがビシビシ伝わる。

南北戦争も戊辰戦争も、内戦とは血なまぐさく、死者も膨大になる傾向がある。人心は荒れ、同じ血をもつ敵を許すことができない。錆びた日本刀、ライフル、火縄銃、短銃、アイヌのナイフと、登場人物たちが持つ武器がそれぞれの罪を象徴する。みんな、許されざる者なのである。

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「謝罪の王様」 (2013 東宝=日本テレビ)

2013-10-14 | 邦画

Shazainoohsamaimg01 圧倒的な人気のまま「あまちゃん」終了。その喪失感からあまロスなんてことばまで。マスコミはなんでも盛り上げるもんですな。

でもよく考えてほしい。確かに高視聴率を誇ったあの番組(平均20.6%)だけれど、視聴率がよかった朝ドラはもっとあった。この十年だけでも「梅ちゃん先生」の方が平均では上回っていたし(20.7%)、あまちゃんの最高記録(27.0%)は台風情報によってもたらされたものだ。

しかし「あまちゃん」は確実に歴史に残る。日ごろ朝ドラを見ない、わたしのような人間が熱中したのは宮藤官九郎の脚本にがあったのと、その魂をギャグでくるむ方法論があの朝ドラですら有効だったことを証明してみせたからだ。というか低視聴率が当たり前だったクドカン脚本が、むしろ朝ドラで華開いたことにびっくり。

それはもちろん能年玲奈という猫背の少女が魅力的だったことや、小泉今日子薬師丸ひろ子のメドレーという、どこの夜のヒットスタジオですかと思うようなキャスティング、大人計画を中心とした劇団畑のくせもの俳優総出演(阿部サダヲは出演させてもらえなくて残念でした)のおかげもあるだろう。でもそれ以上に

「ジョージ・クルーニーなんて描けねーよー!」

シリアスな場面にこんなセリフが挿入されることがこれまで許されただろうか?他のドラマと絶対的に違うのがこの部分で、テレビの常識を少しオフビート方面にシフトさせてくれたのではないか(でも「ごちそうさん」は、仏壇に向かって心情を訴える家族、なんて使い古された手法が使われていてちょっとがっかり)。

Shazainoohsamaimg02 あ、「あまちゃん」の話ばかりになってしまってどうもすみません!日テレの作品なのにNHKの話ばかりですみません!

宮藤官九郎×阿部サダヲ×水田伸生の新作「謝罪の王様」は、これまでの「舞妓Haaaan!!!」「なくもんか」よりもギャグ方面が強化されていてうれしい。

このシリーズはどうしても主人公のトラウマに尺をとられることが多いのが不満だったので、あまちゃんの成功はクドカンに「もっと無茶やっていいんだ!」という自信を生んでくれたのではないかな。

「わきげボーボー自由の女神!」

「わきげワッサー14メートル?」

こんなセリフが東宝の番線にのっただけでも収穫(笑)。キャストでは、ほぼ全篇にわたって仏頂面で通す井上真央と、ごひいき尾野真千子がいい感じ。井上のレオタード姿や尾野の胸をわたしもガン見してすみません!

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八重の桜~第四十一話「覚馬の娘」

2013-10-13 | テレビ番組

Taisukeimg01_2 第四十話「妻のはったり」はこちら

前回の視聴率は12.4%といまひとつ。というかいちおう番組改編期だというのに地上波の地盤沈下が止まらない。どうやら高齢者向けの番組だけは堅調なようで、知人が出演した「人生の楽園」までランクインしてるっ!

さて今回は自由民権運動が伸長しているお話。板垣退助、伊藤博文、岩倉具視と、お札な人々(おふだじゃないですよ、おさつ。そんな世代なんですわたし)がそれぞれに動く。京都では槇村が勝手な増税を行おうとしたために府議会と対立。関西方面にはたまにこういう知事が出るんですかね。あ、東京も似たようなものか。それを言ったら山形には三島通庸という化け物がいたんだった。

徳富蘇峰が新聞をIwakuratomomiimg01読むのは縦覧所という施設。宅配などあるはずもない時代だから存在意義があったのか。まるで新聞カフェ。お勉強になります。その真ん前で民権運動の演説が行われるのは安易だけど仕方ないのかな。

キャストの多くが学生であるためか、一気に軽くなった印象。オダギリジョーは今回なにもしていないし、八重もまた。ドラマのボルテージもどんどん下がっている。オーバーアクトがしゃれになっていた髙嶋政宏が、まわりの軽さもあってコント芝居に見えてしまうくらいだ。西島秀俊と政治的に刺し違える凄みが伝わってこない。

「戊辰戦争のときを基準に考えちゃだめよ」

妻はそう弁護するけれど、これから二ヶ月もつづくんですよ。キーとなる新しいキャストの注入はぜひとも必要だと思う。今回は「作 山本むつみ」とだけクレジットされていたので彼女の脚本なのだろうが、このままでは……

ただし、山本覚馬の、花Hirobumiimg01嫁の父としてのセリフはうまい。

「何かあったら、大声で呼べ」

わたしも娘が嫁に行くときに使おう(笑)。ボギーの墓碑銘「用があったら口笛を吹け」でもいいか。犬か御用聞きですか。

薄味な展開なので視聴率は期待できない。今回は11%ジャストか。

第四十二話「襄と行く会津」につづく

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「火の魚」 (2009 NHK)

2013-10-12 | テレビ番組

Hinosakanaimg02 オンエアの日、いつもテレビを見る習慣がないのに(ほんとよ)、たまたま見ていて、驚いた。ものすごく上質のドラマだったので。

気配はあったの。「カーネーション」でブレイクする前の尾野真千子をヒロインに起用したセンスがいい感じだし(というよりこの好演が朝ドラへの抜擢の決め手だったのでは?)、むかしやんちゃだったが(ある理由で)島にひきこもっている老境の作家、こんな役は確かに原田芳雄しかいないと納得できる。つまり傑作の匂いがプンプンしていたの。

しかしドラマはその予想のはるか上を行った。死への怖れを、誰よりも感じていたのが若き編集者の方だったあたりのどんでん返しと、作家がラストで得たものを一発で視聴者に理解させるセリフが泣かせる。

特に、命の象徴である火の魚(金魚)をめぐるやりとりが、そのままうろたえる作家、規格外の量の薔薇、「わたくし、もてた気分でございます」という尾野のセリフにつながるあたりの周到さはどうだろう。原作の室生犀星とは教科書に出てくるだけの存在じゃないんだな。

冷静ぶってますけれど、んもうボロボロ泣きながら見てました。違う時間に妻も見ていたようで(ディスカスで借りたDVDで見直してました)、彼女もボロボロ。脚本渡辺あや、演出黒崎博、そして地方局の底力を見せたNHK広島放送局に感服。

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「仁義なき戦い 代理戦争」 (1973 東映)

2013-10-11 | 邦画

482495_16722906_0 観ているあいだに落ち着かない気分になり、観終わって呆然。いったいなんだこれは。なんでこんなに面白いんだこの映画はっ!

「仁義なき戦い」シリーズはもちろん全部すでに観ている。北大路欣也の鉄砲玉っぷりが哀しい第二部「広島死闘篇」か、広島やくざ抗争の終焉を描いた第四部「頂上作戦」の評価が高いようだし、わたしもそう思っていた。キネマ旬報のベストテンでは第一作が最上位(2位)にいる。

でも。でも久しぶりに再見して確信した。第三作「代理戦争」こそが最高作だ。いや、東映実録路線、いやいややくざ映画すべてのなかで、これほど面白い作品はない。

このシリーズが画期的なのは、任侠ものなどで「義理」「自己犠牲」的なフレーズで賞揚されてきたやくざが、実は「裏切り」「卑怯」「臆病」「強欲」のかたまりであることを(オールスターキャストで)暴露した点にある。

「代理戦争」はその極北。小競り合いに見えた反目が、“日本最大の組織”とどう向き合うかの一点で火がつき(正確には山口組と本多会の対立)、当事者も混乱するほどの戦争に発展していく。そこには美学の介在する余地はまったくない。

面子、プライドを彼らが重視するのは“そうしなければまわりから潰されてしまう”からにすぎず、だからやくざは常に背伸びをし、虚言を吐き、そして殺す。

すぐれた経済ドラマでもあり、大河ドラマ的にも見ることができる出色の作品。いやー凄かったな。この凄さにどうして最初に観たときは気づかなかったんだろう。

そうか、これこそまさに大人向けの作品であり、自分が臆病で卑怯な存在であることを知ってしまった観客用につくられていたからか。自分が薄汚いことに気づいた方は(笑)必見!

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「MEMORY」 本多孝好著 集英社文庫

2013-10-10 | ミステリ

死が近い患者の、最後の願いをかなえることで、ある意味その死者とその死の責任をとってしまい、みずからを追いつめてしまった神田。

葬儀屋のあととり娘として、だからこそ数多くの(特に両親の)死を引きずる森野。

この、世の中でいちばんめんどくさくて愛すべきカップルの(おそらくは)最終章。今回は、森野が中学卒業寸前に起こしたひとつの事件が多視点で描かれる。

MOMENT」「WILL」そしてこの作品とつづけて読める人は幸せだ。すばらしいシリーズなのでぜひ。っていうか、これまで60万部も出ているのにいきなり文庫書き下ろしというのはどういうことなんだろう。

本多孝好のファン層がそっち系(どんな系だか)中心ということかしら。めんどくさい恋愛現役の方々が多いってことね。がんばってよー。

MOMENT (集英社文庫) MOMENT (集英社文庫)
価格:¥ 560(税込)
発売日:2005-09-16

WILL (集英社文庫) WILL (集英社文庫)
価格:¥ 650(税込)
発売日:2012-03-16

MEMORY (集英社文庫) MEMORY (集英社文庫)
価格:¥ 525(税込)
発売日:2013-09-20
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