最近この「魚のぶろぐ」では、イットウダイの仲間であるニジエビスとクロオビエビスの違いについて書いた。この2種については大変よく似ていて、とくに幼魚のうちは見分けるのが困難という内容である。その後、この問題についてだが、色々調べているうちにさらに闇が深まった。
某サイトにアヤメエビスの小型個体が掲載されていた。その個体は写真で見る限り小型であるが、成魚とは背鰭の模様がかなり異なり、クロオビエビスのような色をしていた。ただ体色についてはもうアヤメエビスであった。逆に静岡県産のものでは、体色がクロオビエビスであったが、鰭がアヤメエビスのようなものもあり、さらに分からなくなってしまった。「魚類写真資料データベース」においては、アヤメエビスの成魚についてはあれだけ写真があるのに幼魚の写真が一件もないのが疑問である。
さらに驚くべきことに長崎でクロオビエビスが得られているが(長崎市沿岸から採集された対馬暖流域初記録のクロオビエビス. Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 10: 44–48)、この個体から得られた塩基配列データが、塩基配列のデータベースにおいてスミツキカノコとされている個体がクロオビエビスと考えられるなど、この手の魚の同定はかなり難しいことがわかる。
一方、同じイットウダイ科の魚であるアカマツカサ属の同定はさらに難しい。この仲間は主に琉球列島以南に分布しているが、なかなか同定の「決め手」が少ない。いずれも赤い体をしており、中には黄色い鰭のキビレマツカサや、尾鰭や臀鰭、背鰭軟条部縁辺が黒くなるツマグロマツカサなど分かりやすいものもいるが、赤くて側線有孔鱗数27~30のものはわかりにくい。
このナミマツカサもアカマツカサ属のものでとくに同定が難しいもののひとつである。最初はその見た目からツマリマツカサという種と思われた。しかしツマリマツカサは胸鰭腋部に鱗がないのに対して、このナミマツカサは胸鰭腋部に鱗があることにより見分けられる。また鰓耙数もナミマツカサ32~36であるのに対しツマリマツカサでは43~47であるのでこの特徴でも区別することができる。また鰓耙数ではナミマツカサの近縁種であるヨゴレマツカサともかぶらないので見分けられるだろう。なおツマリマツカサの側線有孔鱗数は28~29であるのだが、「日本産魚類検索」の第二版以降では側線有孔鱗数が32~43のグループに入れられてしまっているので一応注意。このほか頭部の背面、眼の幅、頭長比などにより見分けることができるのだが、いずれにせよ本種をより詳しく知るのであれば、個体を残しておくことが必須である。硬い鱗で敬遠しがちだが、アカマツカサの仲間は白身で極めて美味、最近高いエビスダイに近い仲間である本種は美味しいのも当然といえるか。
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