キム・ヨナや、鈴木明子のプログラムは、観客に直接“見せる”もの。バレエやダンスの世界で、この場面ではこう、この感情はこうと伝統的に使われてきた動作やしぐさをつないで、ストーリーを提示する。
逆に、浅田真央のプログラムは、自身がつきつめていく姿を“見てもらう”。直接訴えるのではないけれど、“頑張る姿を見て感動する”みたいな、日本的な感覚が強いかも。
その内面から発せられる、ほとばしる感情がオーラになって出てくれば、観客に訴えるもの、ジャッジを動かすものになる。それを期待したい。
いよいよ明日は、バンクーバー五輪のクライマックスともいえる、フィギュアスケート女子シングルのフリー。浅田真央とキム・ヨナ、対決はどちらに軍配?
SPのジャッジスコアを比較すると、細かいところの少しずつの点差が積み重なっているのがわかる。(カッコ内はレベル。実際に行った順番とは変えている。色字は相手より上回っている点)
浅田真央 キム・ヨナ
基礎点 GOE 得点 基礎点 GOE 得点
コンビネーションジャンプ 9.50 0.60 10.10 10.00 2.00 12.00
ステップからのジャンプ 5.50 0.20 5.70 5.50 1.20 6.70
ダブルアクセル 3.50 1.60 5.10 3.50 1.60 5.10
レイバックスピン(4) 2.70 0.70 3.40 2.70 0.80 3.50
フライングシットスピン(4) 3.00 0.50 3.50 3.00 0.50 3.50
足替えコンビネーションスピン(4) 3.50 0.50 4.00 3.50 1.00 4.50
スパイラルシークエンス(4) 3.40 2.00 5.40 3.40 2.00 5.40
ステップシークエンス(3) 3.30 1.00 4.30 3.30 0.70 4.00
計 34.40 7.10 41.50 34.90 9.80 44.70
ジャンプ以外のスピン・スパイラル・ステップは二人とも全く同じレベルを取ったので基礎点は同じ15.9。GOEではキム・ヨナが0.3上回ったが、ほとんど差は出なかった。
逆にジャンプでは差がついてしまった。まず、トリプルアクセル+2回転トウループは基礎点9.50なのに、3回転ルッツ+3回転トウループは10.00なのだ。なんか割に合わない気がするが^^; GOEで1.40差、合計で1.90差。3回転半回るために高く跳び上がる分、2つ目のジャンプは小さく見え、着氷後の流れもあまり大きくならないのが惜しい。
同じ3回転フリップで、GOEに1.0の差。元々キム・ヨナはフリップが得意だったような…。真央ちゃんは昨季ルッツを跳んで、踏み切りエッジに注意マークがついたり、クリーンに跳べなかったりしたので、基礎点が下がっても確実に取ろうとフリップにしたと思われる。ここで差をつけられてしまうのが口惜しいところだ。
プログラム・コンポーネンツでは、各項目平均0.3くらいずつ、キム・ヨナが高い得点をもらっている。わかりやすい振付だし、曲の音と合わせやすいのはたしか。
浅田真央のほうは、演技に合わせて曲を切ったりつないだりしているのがはっきりしてしまっているので、曲を解釈して表現しているという感じが薄くなってしまう。振付の細かいところ、つなぎの部分でアピールする動作が少ないので、点が出にくいのかも。
細かくみるといろいろあるが、演技全体で真央ちゃんが損してる&キム・ヨナが得してるのは、キム・ヨナのスケーティングが、一蹴りでよく伸びるタイプということ。身長も真央ちゃんより少し高いし、骨格がガッチリしている(ロシェットほどじゃないけど)。パワーがしっかりスケートに伝わってる感じ。
一方真央ちゃんは、日本人的にはちょうどいい背の高さだし、プロポーションはとてもきれいなんだけど、アスリートとしては線が細いかも。太腿の筋肉なんかは、まだまだ?! そろそろ体型が固まるだろうから、これからはフィジカルなトレーニングの効果がどんどん出てくると思うが・・・
パトリック・チャンもそうだが、“一蹴りが伸びる”と、ジャンプの後の流れが美しく見え、ただ滑っているだけの部分も実際以上にきれいに見える。ジャンプやスピンのレベルが同じくらいなら、最終的にそこが勝負の分かれ目になる。となると、ジュニアのうちから、伸びるスケーティングを身につけさせるようにしていかないと、結局世界でトップになれない時代かもしれない。
なんて分析してても、結局できることは応援だけ。あとは緊張しすぎないで、気持ちは集中、体はリラックスして、自分の滑りを存分にできることを祈る