いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

フリュート船

2008年12月14日 18時16分26秒 | 欧州紀行、事情
-- アントワープ、ジェノヴァの次に「中心都市」となったアムステルダムは、そのネットワークを再構築した。(中略) アムステルダムはこうして得た余剰収益を元手にして、洗練された船を製造する造船業を産業化させることができた。一五七〇年に発明されたフリュートと呼ばれた革新的な船は、これまでの船より格段に収益性が高かった。というのはこの船は大量生産可能であり、また、乗組員を五分の一に削減したからである。--

洗練された船が世界をつなぐ - アムステルダム/ 一六二〇~一七八八年
           ジャック・アタリ、 『21世紀の歴史』



たぶんフリュート船。 アムステルダムにて。

■ジャック・アタリ、『21世紀の歴史』は、資本主義の歴史を「中心都市」というモチーフを軸にマンガ化し、その「中心都市」の必須条件、つまりノマド(非定住民)の一種である<クリエーター階級>の存在の重要性を説く。この本は「ため」にする本で、著者の「母国」フランスへの憂国の情に駆動され、将来のフランス(それが表題の『21世紀の歴史』である)が「中心都市」たりうるか評価される。おまけに、日本版へのサービスとして日本の将来(21世紀の歴史)へのコメントもある。

資本主義の歴史における「中心都市」は9つ;ブルージュ、ヴェネチア、アントワープ、ジェノヴァ、アムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロスアンジェルス。前史として、市場民主主義の本籍・出生地としての古代ユダヤと古代ギリシャでの「自由」と「市場」の発生について書いてある。

21世紀の歴史、つまりこれからの世界は、グローバル化で人々は<ノマド>化する。<ノマド>とは人類は一万年前にメソポタミアの地で、<定住民>となったが、二一世紀に再びノマド(遊牧民)となる者が増える。ノマドを大別すると三種類あり、エリートビジネスマン・学者・芸術家・芸能人・スポーツマンなどの<超ノマド>、生き延びるために移動を強いられる<下層ノマド>、定住民でありながら超ノマドに憧れ、下層ノマドになることを恐れて、ヴァーチャルな世界に浸る<ヴァーチャル・ノマド>である。日本のオタクはヴァーチャル・ノマドに属する。二〇二〇年ごろには人だけでなく企業もノマドのような存在になる。(『21世紀の歴史』の定義集より)

こういう状況で、フランスについて、「フランスはこれまで<クリエーター階級>を作りだす、呼び起こす、招聘することに成功してこなかった。つまり、フランスはこれまで十分な数の航海術に長けた人物、技術者、研究者、起業家、商人、企業家を養成してこなかった。またフランスは、科学者、金融業者、企業を創造する人間をフランスに引き寄せてこなかった。フランスにやってきたのは、理論家、当局から派遣された芸術家、全体を統括し行政を担う行政担当官といった、リスクを避ける面々だけであった。(中略)結局、フランスが「中心都市」となることはなかった。なぜならば、フランスは歴史の法則に一度もしたがうことがなかったからである。」

この結論と同じことが、日本にもあてはまるとアタリは言っている。

その上で日本の21世紀の10の課題を挙げている;

1.中国からベトナムにかけての東アジア地域に、調和を重視した環境を作り出すこと。
2.日本国内に共同体意識を呼び起こすこと。
3.自由な独創性を育成すること。
4.巨大な港湾や金融市場を整備すること。
5.日本企業の収益性を大幅に改善すること。
6.労働市場の柔軟性をうながすこと。
7.人口の高齢化を補うため移民を受け入れること。
8.市民に対して新しい知識を公平に授けること。
9.未来のテクノロジーをさらに習得していくこと。
10.地政学的思考を構築し、必要となる同盟関係を構築すること。


ん~、中川秀直センセの路線みたいだね。Amazon

▼例えば、山中センセのiPS細胞のブレイクスルーはすばらしいのではあるが、その大成功の展開は,ちんけでつまらない「オールジャパン」なるものの形成だ。つまり、世紀の大発見なので当然政府は研究費を出す。なので、それに日本人のマウス屋さんからオタマジャクシ屋さん(?)までが研究費目当てに色めきたち群がろうとした。

でも、やるべきことは、「オールジャパン」なんて田吾作丸出しのことなぞせず、世界中から優秀なヒトiPS細胞研究者を日本に日本政府の資金で集め、山中センセを核として再生医学での実用化を目指すプロジェクトをなすべきなのだ。

そもそも、ヒトiPS細胞研究は米国でもほぼ同時になされ熾烈な競争が現在進んでいるはずであるが、米国のヒトiPS細胞研究者トップ数十人のなかでアメリカ人が何割いるんだろう?調べたわけではないが、多くが世界各国からやってきた俊才の任期付き研究員なんだろう。つまり、「オールUSA」などというケチくさい発想があろうはずもないのである。そもそも(2回目)山中センセ自身が米国のどっかの研究組織にも席があるんだよね(?)。


このフリュート船というのは、ガレオン船の次世代の船らしい。