我が国は重大な岐路に差し掛かっている。サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』(鈴木主税訳)の「日本語版への序文」において、日本の特殊性について論じており、それは貴重な提言である。
ハンチントンは「日本がユニークなのは、日本国と日本文明が合致しているからである」と書いている。つまり、隣接している中国文明とも異なり、どこの文明とも結びつきが深くないために、「日本は他の国々がもちえない行動の自由をほしいままにできる」というのである。
ハンチントンの文明論によれば、国益というよりも、どこの文明に属するかで、 国家の方向性が決まる。唯一日本のみが「文化的な紐帯ではなく、安全保障および経済的な利害によって形成されることになる」と指摘したのだ。
だからこそ、日本が国際的な存在になって以降、第一次世界大戦前のイギリス、大戦間の時代のファシスト国家、第二次世界大戦後のアメリカと手を結んできたというのが、ハンチントンの見方なのである。
その見方に立脚すれば、東アジアで中国が覇権国家としての地位を築けば、それ相応の対応を迫られることになる。しかし、中国への傾斜は、中国文明に服属することを意味し、自由と民主主義を手放すことである。安全保障上の観点からも、アメリカとの関係を重視するしか選択肢はない。
これまで同様にアメリカとの同盟を維持するためには、いざというときに、アメリカが日本を守ってくれるかという確約がなければならない。それが無理ならば、日本は独自の軍備拡張を目指すしかないのである。
すでに、日本に対する中国のサイレント・インベーションは、各界各層に及んでいる。それを阻止するのは困難になってきており、我が国はどこまで、その特殊性を生かせるかなのである。