今は亡き安倍元首相の功績として、絶対に忘れてはならないのは、天皇陛下の御譲位を丸く収めたことである。約200年ぶりのことであり、平成29年12月1日に皇室会議が開催され、皇室典範特例法の施行日を平成31年4月30日とすることが決まったのである。
あくまでも特例法としてあるが、これに関しては、安倍元首相と、当時は野党であった野田佳彦元首相との間で、事前に話し合いが行われ、政争の具にすることなく、大変難しい問題を乗り越えたのである。
日本は皇室あっての国柄である。東大教授であった法哲学者の尾高朝雄は、現憲法下でも、我が国の特殊な国柄こそが、民主主義を維持するための根本原理であることを説いていた。
「民主主義の政治原理は、政治の正しさを識別すべき根拠を国民の意志に置く。これを、主権が国民に在るといい、国民の総意によって法を作るというのである。かような国家組織の根本体制は、必ずしも君主制と両立し得ぬものではない。なぜならば、国民主権の下において、君主がなおかつ統治の実権を掌握するということは、もはやあり得ないが、国民の総意をもって統治の基準としつつ、君主をもって国民共同体としての国家の統合性の象徴とすることは可能であり、君主側の伝統を有する国家の特殊性をば、民主主義という普遍的な政治原理の中に生かしてよくゆえんともなるからである」(『法哲学』)
国柄としての皇室の特殊性を「民主主義という普遍的な政治原理の中に生かしていく」(『同』)ということが、我が国の民主主義を守り育てていくことに結び付くのである。その観点からも、安倍元首相が、国論を分断させることなく決着させたことは、高く評価されるべきなのである。