創作日記&作品集

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補厳寺(ふがんじ)参る 幽霊3

2013-08-06 06:10:22 | 創作日記
座敷の障子にいくつか影が映っている。女もいるようだ。踏み石から、廊下に上がった。先に立った和助さんが、ひざまずいて障子を開けた。庄屋がいた。息子達の姿はなく、女が二人いた。娘だろうか? 村人らしい男が三、四人いた。膳が用意されていて、酒を飲んでいた。
「やあ、すんまへんなあ。い……」
「岩田です」
「せや、岩田はんや」
庄屋は、顔を真っ赤にしている。ろれつも少しおかしい。僕は空いている膳を手で示された。酒は嫌いな方ではない。喜んで座った。出囃子(でばやし)が鳴って、障子を開けて落語家が入ってきた。正座して障子を締め、一番下座に用意された座布団に座った。
「ええー、今夜は阿茶(あちゃ)様の五百回忌と言うことで、「あちゃ」なんて」
つれとおんなじレベルだ。誰も笑わない。勝手気ままに喋っている。僕は手酌で飲んだ。
「えらい気のきかんことで。克子、お客に酌せんかいな」
克子と呼ばれたのは、浴衣を着た大柄な女だった。もう一言つけ加えたら、とても不細工な女だった。女は僕の前にドタッと座った。僕は、化粧の匂いに顔をそむけた。そのひようしに落語家と目が合った。落語家は注目されていると思ったのだろう、もみ手をして、嬉しそうに笑った。
「ええ、お後がよろしいようで」
終わったようだ。
和助さんが近づいてきて、僕の耳元で囁いた。
「準備が出来たようで」
渡り廊下に出たが、誰もついてこない。
「僕だけですか?」
先導する和助さんに声をかけた。
「そうです。そろそろ阿茶(あちゃ)様が来られます」