創作日記&作品集

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補厳寺(ふがんじ)参る 幽霊4

2013-08-08 05:36:36 | 創作日記
本堂に入った。灯明が燃えている。法師は一人で、小さく読経している。庭でないているコオロギの声に同調しているみたいだ。和助さんは僕の背後に座った。
「村のものは法事に出ることはできません。あっしも村のものですから、お出でになりましたら、退出させてもらいます」
「それで僕が呼ばれたのですか。どうして村の人は出られないのですか」
「どうしてでしょうね。言い伝えです。ただ、阿茶(あちゃ)様は村の方ではありません。なぜか村では100年に一度法事をしています」
読経は終わり、法師が退場した。気づくと和助さんの気配も消えていた。
「ふ、ふっ」
っと、笑い声がした。娘の声だ。
「阿茶(あちゃ)様?」
「そうです」
鈴が鳴るような声というのだろうか。いつの間にかコオロギの声も消えていた。遠くで聞こえて盆踊りの音も消えた。全ての音が消えていた。ふっと、灯明が消えた。真の闇になった。「逃げたい」と思った。だが、動けなかった。
「姿は見せないのですか」
僕は言った。
「ふ、ふっ」
っと、女はまた笑った。