創作日記&作品集

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😂連載小説「Q」第二部6

2020-06-04 06:43:56 | 小説
連載小説「Q」第二部6
適当にドアを開けると、女性がいた。
どういう女性かというと、光一は説明できない。
特徴がつかめない。
160㎝にも180㎝も見える。
光一は175㎝だが、まさか背比べは出来ない。
髪はショートカット。
鶯色のワンピース。
多分日本人。
足は? 
胸は? 
目は? 
鼻は? 
口は? 
ヒップは? 
平凡。
そう、この女性は平凡なのだ。
「美人の要素を一杯混ぜている内に、平凡になったの。人間には美人の基準なんてないのね」
声は気持ちよく聞こえる。
一種の音楽のようだ。
不思議なメロディー。
小鳥のさえずり。
風の音。
落花の舞。
光一はうっとりした。
とにかくそんなのが光一の前にいる。
写真を撮ると、自分の影だけがくっきりと写っているのだろう。
「それで、提案は『愛慕におならの機能は必要か?』」
「まあそうです」
「光一君は真っ直ぐなのね」
「真っ直ぐ?」
「サニーの社員数って知ってる」
「知りません」
「117,300名」
「その中で一番真っ直ぐ。それが君がサニーにいる理由。IQだって高くない。言い間違えた。低い。簡単に言えば頭が悪い。会社はもうパンパンなの。人を減らす余地はいくらでもあるけれど、入れる余地はない。だから、私も企画室長を兼任。そんな状態でサニーが必要なのは、天才か、低能か、気狂」
「気狂は差別語ですよ」
「差別語? 言葉を差別してはいけない。差別だ!」
「ぼくは低能ですか?」
「サニーの中ではね。九人の女騎士に伝えて。おならはあなた方には必要でも、愛慕には必要でない。おならのこきあいでもしていたらってQが言ってたって」
ふっと気配がなくなった。
床には、光一の影だけが色濃く伸びていた。
Qの一言で、企画室は「おならの機能」を考えなくてすんだ。
「必要」だと言われたら、彼女等は真剣に「おならのこきあい」でも、始めたかもしれない。
部屋を出ようとした光一の背中にQの言葉が下りてきた。
連載小説「Q」第一部をまとめました。

😊連載小説「Q」第二部5

2020-06-03 06:17:24 | 小説
連載小説「Q」第二部5
次に企画室長になるのは、Qと呼ばれる女性だった。
彼女は人工頭脳だ。
Queen。
六十階に住んでいる。
彼女はCEOでもある。
分散型AIである。
今や家庭にも入り込んでいる。
愛慕にもいる。
光一はQに呼ばれていた。
企画室のある三階から、十六階までエレベーターで上がる。
そこで、個人認証システムを通る。
文字通り、駅の改札口を通るみたいに。
十六階で個人認証で確認され、一人用のエレベーターに乗る。
地上三百メートルの六十階まで四十五秒で着く。光一が六十階に来るのは初めてだった。
 ――誰がいるのだろう
「大谷光一君」
女性の優しい声がする。
「真っ直ぐ歩いて。どこでも好きなドアを開けて。待っているわ」
廊下に沿っていくつもドアが並んでいる。
突き当たりまで走ろうと思ったが、
「廊下は走っちゃダメ」
と、叱られた。
連載小説「Q」第一部をまとめました。


👀連載小説「Q」第二部4

2020-06-02 06:41:20 | 小説
連載小説「Q」第二部4
光一は勤務時間の殆どを抽斗の整理に費やしている。
「もうすぐ十時よ」
横を通り過ぎながらお局(つぼね)が言った。
五十過のおばさん社員である。
愛慕のデザイン担当だ。
  ――耳を五ミリ長くした方が 。
と言う提案をする。
彼女の企画が通ったことはない。
唯一の主婦は円(まどか)さん。
ディスクに着くと、最初の仕事は、スーパーのチラシのチェック。
トリプル(Triplets)は三つ子で、愛慕の服のデザインを担当している。
三人は区別がつかない。
同時にいることはないので、光一は一人だと思っている。
トリオは、三人の掃除婦。
同級生の女の子で小学生。
何故小学生が働いているのだろう。
計九人。
アマテラスは神棚担当の謎の老婦人。
不確かな情報だが百才。
アマテラスは数に入れない。
社員ではない。
会社のために祈るボランティアである。
姿を見たものはいない。
夜明けと同時にやって来て、神棚を浄め、水をかえる。
蝋燭を立て、お祈りをすると風のように帰って行く。
連載小説「Q」第一部をまとめました。

連載小説「Q」第二部3

2020-06-01 06:55:50 | 小説
連載小説「Q」第二部3
S社は台湾の大手サニー社に吸収された。
犬型ロボットは台湾の老人に人気があった。
営業の秀才達はすぐに台湾語をマスターして台湾勤務になったが、大谷光一は企画室に配置替えになった。
企画室は十一人中九人が女性で、課長と光一だけが男性だった。
その課長の鈴木さんも定年で守衛室に配置換えになり、企画室は光一と九人の女性になった。
「大谷君は、十時に六十階に呼ばれているのね」
姫が声をかけた。
姫はあだ名で、本名は山本沙苗。
内勤になった今もエントランスで出会うが、風のように光一の横をすり抜けていく。
「そうだ。十時だった」
「忘れちゃダメじゃん。縛り首だよ」
 そう言って、手鏡で化粧を直した。
「六十階には何があるのか。何がいているのか誰も知らない。もしかして、幽霊がいるかもしれないよ」
姫は鏡の中の自分に喋りかけた。
「幽霊ですか?」
「怖い?」
「見たことないす」
「見たことしか信じないの?」
「まあ、そうすね」
「だから君は愛慕を一つしか売れなかったんだ」
「関係があるの?」
「多分あると思う。愛慕はないものを売るのよ」
姫は光一君はかわいいと思う。
だけど、そこで話を止めた。
光一も話は終わったと思い、抽斗の整理をはじめた。
九人の女子社員は、協定を結んでいた。
 ――独り占めしないこと。
連載小説「Q」第一部をまとめました。