6時起床。温泉で汗を流し、身支度を整えて7時前に宿をチェックアウト。車に乗ろうと思ったところで、目の前の森に鹿がいることに気付く。鹿も、こっちを向いている。完全に目が合っている。何か言いたいことがあったのだろうか。
車に乗り、摩周湖を目指す。距離にすると約110キロ。所要時間は約2時間。あいにくの天気で遠くの景色はあまりよく見えなかったが、それでも北海道の道をドライブするのは気持ちの良いものである。
摩周湖の第一展望台に到着したはいいものの、辺りは完全に霧で覆われていて、何も見えない。さすがは、「霧の摩周湖」。でも、ここまでじゃなくてもいいのに。仕方がないので売店コーナーに入り、少し休憩。夕張メロンの切り売りを食べてみたら、めちゃくちゃ甘くて美味しかった。こんなに甘いメロンには、なかなかありつけない。また、摩周湖ソフトという綺麗な青色のソフトクリームも食べてみた。味は普通の(しかし濃厚な)バニラソフトで、これもまた美味しかった。
第一展望台からの眺め。本来であれば、ここに湖が見えるはず…。
摩周湖の第三展望台にも立ち寄ってみたものの相変わらずの霧で何も見えなかったため、反対側にある裏摩周展望台へ回ってみることにする。とは言っても、摩周湖そのものの大きさもかなりあるし、道も湖に沿ってあるわけではないので、何だかんだで1時間弱の時間が掛かった。ただ、やはり霧を抜けると辺り一面に雄大な景色が広がっていて、気持ち良かった。
裏摩周展望台の少し手前にある、神の子池に立ち寄る。一部がコバルト色をした不思議な湖で、何とも神秘的な雰囲気に包まれている。池に沈んでいる倒木が腐らずそのままなのも、何かしらの力なのだろうか。また、池そのものには流れもなく静寂に包まれているのに、なぜか池から流れ出る水の量は多く、その光景にも何ともいえない神々しさを感じる。当初は訪問を予定しておらず、霧のおかげで訪れることが出来た場所なのだが、ここに来れたのは本当に良かったと思う。
裏摩周展望台からも、やはり摩周湖は見られなかった。霧の力、恐るべし。しかしまあ、こればかりは仕方ない。
続いては、「地平線を見渡すことができる」と言われている日本を代表する大牧場、多和平へ。周囲を見学する前に、隣接しているレストラン「グリーンヒル多和」で昼食。摩周湖の伏流水で育ったという地元・標茶牛のハンバーグセットを食べる。ハンバーグそのものも肉感が強くて美味しかったのだが、それ以上に自家製のパンの美味しさに驚かされた。信じられないくらい柔らかくて、ふわふわしているのだ。香りも良く、味そのものもほのかな甘みがある。店員さんによると、水ではなく牛乳を使って生地をこねているらしい。さすがは北海道である。
スープは、ジャガイモの冷製スープ。
ハンバーグはもちろん、付け合わせのジャガイモと人参も味が濃くて美味しい。
しかし、主役はこのパン。美味し過ぎる。
食後のデザートとコーヒー。これは普通の味。
多和平は思っていた以上に広く、というか、正直なところ広すぎてどこまでが牧場なのかわからなかった。360度どこでも地平線が見渡せるというのがひとつの売りらしいが、確かにこんな景色はこれまでに見たことがない。こんな場所で育てられれば、そりゃあ牛も馬も羊もヤギも、ストレスなく美味しいミルクを出すだろうし、美味しいお肉になるだろう。
柵に近付くと、みんなこっちに寄ってくる。警戒されてる?
続いては、屈斜路湖を目指す。まずは、湖そのものではなく、湖がよく見えるという美幌峠へ。その途中で、JA摩周湖青年部のユーモア溢れる看板に出会った。面白いし、何となく艶やかな感じもするし、何より温かい気持ちになる。
「ミルクあふれちゃう 乳牛だもの」
美幌峠も例に漏れず霧に覆われており、結局何も見えなかった。仕方がないので、売店で美幌名物だという笹熊ソフトクリームを購入。笹の香りのするソフトクリームで、感覚的には抹茶ソフトに近いのだろうか。
気を取り直して、屈斜路湖がよく見えるというもうひとつの展望施設だという津別峠展望施設へ。施設に着く手前1キロほどのところまで霧が一切なく、ここはいけるのではないかと期待が膨らんだのだが、結局はこれまでと同じ結果になってしまった。しかも、ここは私以外の来訪者がおらず、霧に覆われた展望台にたった1人でいるというのが、とにかく怖かった。なぜか、子どもの頃に見知らぬデパートで迷子になった時のことを思い出した。
こんなところに1人って、結構怖いもんです。
展望施設から屈斜路湖に向かって下る途中のポイントから、少しだけ屈斜路湖の様子が見えた。そうそう、こういう景色を見たくて今日は走り回っていたのだ。やっと、それらしい景色に出会うことが出来た。
屈斜路湖の湖畔へ移動し、砂湯と呼ばれる一帯へ。この一帯では、湖畔の砂浜を掘ると温泉が湧き出てくる。私は掘るのが面倒だったので、既に掘ってある穴に足を入れてみた。これがなかなかちょうど良い温度で、気持ち良い。かれこれ10分ほど浸かっていたら、一気に足が軽くなった。ただ、数か所の穴を歩いてみてわかったのだが、場所によってはかなり熱いお湯が出ている場所もあるので、気を付けなければならない。
今日の最終目的地、阿寒湖へ。まずは、今日の宿「鶴雅ウィングス」にチェックイン。部屋を大幅にランクアップしてくださり、かなり広い和洋室へ案内された。広すぎて、逆に落ち着かないくらいだ。
さっそく、阿寒湖畔の散策へ出掛ける。広くて落ち着きのある湖で、湖畔を歩いていると吹いてくる冷たい風が心地よい。
宿へ戻り、お風呂に入る。屋上の露天風呂からは、阿寒湖が一望できる。その景色は本当に素晴らしいし、温かい温泉に入りながら冷たい湖からの風を浴びるのが何とも気持ち良い。
部屋で少し休憩してから、夕食をとりに出掛ける。せっかくだから名物のヒメマスを食べようと、寿司屋「寿し忠」に入る。大将に希望を伝えると、ヒメマスといくらの二色丼をおすすめしてくださったので、それを頂く。この時期、ヒメマスは「ルイベ」という少し凍らせた状態で食べる食べ方をするのだが、その食感がなかなか新鮮だった。ヒメマスの味自体も、思った以上に脂がのっていて、臭みもなく、とても淡水魚とは思えなかった。いくらも濃厚で美味しく、このメニューの選択は大正解だった。また、大将がサービスで生のすじこを食べさせてくれた。生ではこの時期にしか食べられず、今が一番美味しい時期だということだったが、本当に絶品だった。これがあれば、ご飯何杯でもいける。
お客さんが私しかいなかったので、ゆっくりと大将とおしゃべり。この地域も例に漏れず観光客の減少に悩まされており、海外(特にアジア圏)からの旅行客受け入れで何とか一定の数を保っているものの、やはり厳しい状況に置かれているらしい。また、規制緩和の影響により、宿泊施設においても正社員が減って使い捨てのパートや派遣が増え、従業員が近隣の飲食店などを利用する割合も大きく減ったそうだ。更に、かつては宿泊施設は宿泊以外の分野(食事やお土産販売など)には手を出さないという不文律があったそうだが、今ではそれが崩壊し、周辺の飲食店やお土産屋は随分と減ってしまったらしい。他にも、ここでは書けないようなどぎつい話をたくさん聞いた。自分だけ良ければいいという発想の企業や人間が利権を握ると、地域なんて簡単に死んでしまうのかもしれない。そして、それを再復活させるには、尋常じゃない努力が必要になるのかもしれない。
せっかくなので、周辺の街を歩いてみることにする。確かに、廃墟と化した建物が多い。しかも、街の中心地にもそんな寂しい建物が数多く存在する。むしろ、全体を見渡してみると、生き残っているお店のほうが少ないのかもしれない。こういう光景は、決して阿寒湖だけで見られるものではないのだろう。支援機関の人間としては、こういう問題について真剣に考えなければならないと、切実に感じる。
野良犬…と思いきや、こんなところにキツネが。
座っている姿が何ともかわいい。でも、道路の真ん中は危ないよ。
まだ頑張っている飲食店もたくさんある。
この中華屋さんも頑張っている。
お土産屋さんも、頑張っている。
商店で北海道っぽいものを購入し、ホテルに戻る。「レモンカツゲン」という、いわゆるレモン牛乳的な飲み物が美味しかった。
23時前に就寝。明日には帰ると思うと、既に少し寂しさを感じ始めている。