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12月15日(日) 成瀬巡礼。【前編】

2024年12月17日 12時55分08秒 | 2024年

 この日記には、宮島未奈さんの小説『成瀬は天下を取りにいく』及び『成瀬は信じた道をいく』のネタバレが盛大に盛り込まれています。これから読まれる予定の方はご注意ください。個人的には、この日記のような事前情報は全く入れずに作品を読まれることをおすすめします。

 


 

 5時45分起床。

 荷造りをして身支度を整え、朝顔の水やりをする。

 7時前に家を出る。今日から1泊2日で滋賀県大津市へ1人旅に行く。先月、妻と娘が妻の会社の軽音部合宿へ行くのに合わせて企画していた旅だが、その時は家族全員がインフルエンザにやられて中止となってしまったので、妻にお願いして再チャレンジさせてもらうことにした。目的は、宮島未奈さんの小説『成瀬は天下を取りにいく』と『成瀬は信じた道をいく』の聖地巡礼である。

 新横浜7:15発の東海道新幹線こだま703号に乗る。「ぷらっとこだま」という格安切符を利用すると、のぞみ号の定価よりはるかに安い金額でグリーン車に乗れる。時間は掛かるが、座席は快適だしガラガラなので居心地はすこぶる良い。

 ホームの売店で買ったサンドイッチを朝食にする。

 雲ひとつない青空で富士山も綺麗に見える。絶好の旅行日和である。

 10時半過ぎに京都に到着し、琵琶湖線に乗り換える。

 京都に住んでいる叔父一家から「素通りかい!」とツッコまれること間違いなしなので、連絡はしなかった。

 10分ほどで膳所に到着。

 駅のコンコースで主人公の成瀬あかりとその親友・島崎みゆきが出迎えてくれる。2人は同じマンションに住んでいる幼馴染みで、中学2年生の時に「ゼゼカラ」というお笑いコンビを結成しM-1グランプリにも挑戦した。

 ゼゼカラのキャッチコピーである「膳所から世界へ!」かと思いきや、「世界から膳所へ!」である。世界まではわからないが、少なくとも日本中から私のような聖地巡礼者が訪れているはずである。

 個性全開の成瀬と比べて島崎はいわゆる普通の女の子だが、成瀬の良き理解者である彼女の存在感は物語が進むに連れて大きくなっていく。

 スタンプラリーが実施されているようだ。チェックポイントは13ヵ所あり、全て巡るとオリジナルの栞がもらえるらしい。13ヵ所はさすがに…と思ったが、見てみると全て今回予定している訪問先(もしくはそのすぐ近く)だったので、やってみることにする。

 膳所駅は思っていたより大きかった。JR琵琶湖線の膳所、京阪石山坂本線の京阪膳所という2つの駅が隣接している。

 駅前から琵琶湖方面に「ときめき坂」を歩く。駅から成瀬たちの住む「におの浜」へ向かう主要ルートで、作中に何度も登場する坂である。成瀬の巡回パトロールの月曜ルートでもある。

 思っていたより広い坂(道)である。車もそれなりに通る。

 坂を下り始めてすぐ右手に滋賀県立大津高校がある。島崎の通う高校である。『成瀬は信じた道をいく』で成瀬は京都大学へ、島崎は家族で東京へ引っ越して私大へ通うことになるが、成瀬と島崎は2006年生まれなので2024年現在は18歳(高校3年生)である。

 更に進むと右手にセブンイレブンがある。中学2年生の成瀬と島崎が初めて「M-1グランプリ」に出場した後、予選会場の大阪から膳所へ帰って来てここでアイスを買い、(後述する)馬場公園で食べた。

 ときめき坂全体が商店街となっており、セブンイレブンのようなチェーン店も点在しているが、歴史のありそうな個人店や良い意味で不思議な雰囲気のお店も多い。成瀬がここをパトロールしている様子が目に浮かぶようである。

 成瀬がパトロールで商店街の安全を守っているだけでなく、商店街も成瀬を全面バックアップしている。

 坂を下りきる少し手前に大津市立平野小学校がある。作中では「ときめき小学校」という名前で、成瀬と島崎の母校である。

 小学校も公認なんだ。すごいな。

 駅構内や商店街の看板もそうだが、地域全体が成瀬シリーズを応援していることがよくわかる。

 「膳所から世界へ!」というゼゼカラのキャッチフレーズは、未来ある子どもたちの通う小・中学校の標語にもぴったりである。

 小学校を過ぎたあたりで勾配はなくなるが、ときめき坂はもう少し先まで続く。

 小学校の裏にある「よりみちぱん」もスタンプラリーの訪問先に入っているが、私の記憶では作中には登場していない。どうやら、何かのインタビューで作者の宮島未奈さんが島崎のお気に入りとしてここの塩パンを紹介したようである。日曜日はお休みなので、食べられず。

 様々なお店で成瀬シリーズが紹介されている。もしかして成瀬は実在するのではないかと思えてくるほどの推しっぷりである。

 美容室「プラージュ」。高校入学時に「人間の髪は1ヵ月で1cm伸びるというのが本当か検証したい」という理由で丸坊主にした成瀬が、高校卒業までという計画を途中で断念して高3の8月上旬に髪を切った美容室である。1ヵ月に1cmだと髪の長さは28cmになっているはずだが、実際にはトップは30cm、サイドは31cmだった。美容師さん曰く「若いから伸びるのが早いんやね」とのこと。

 ときめき坂の終わりに「馬場公園」がある。先述のM-1帰りにセブンイレブンで買ったアイス(成瀬はガリガリ君ソーダ味、島崎はチョコミントバー)を食べたり、ゼゼカラの漫才の練習場所でもあり、成瀬に憧れる小学生・北川みらいが落ち込んでいるところを島崎が励ましたこともあった。現在は改装工事中で園内に入れないのが少し残念だ。

 勝手な予想だが、成瀬と島崎がM-1帰りにアイスを食べたのはこの場所ではないだろうか。

 高校1年生の時、ここで漫才の練習中だった成瀬と島崎は実行委員長の吉嶺マサルからスカウトされ、ときめき小の校庭で開催される地域祭「ときめき夏祭り」の司会と漫才をするようになる。

 高校3年生の夏祭り前、島崎から東京へ引っ越すことを聞かされた成瀬は珍しく動揺して日常のルーティーンが乱れて勉強も手に付かなくなり、ここのブランコを全力で漕いで自分自身と向き合った。

 公園越しに見えるのが、西武大津店の跡地に建設された「シエリアシティ大津におの浜」(作中では「レイクフロント大津におの浜メモリアルプレミアレジデンス」)である。めちゃくちゃ大きいな。

 公園を抜け、右側へ回ってみる。先ほど公園越しに見えていた棟が左端で、右側にもうひとつ同じ大きさの棟が建っている。一体何部屋あるのだろう。

 西武大津店の閉店は成瀬たちが中学2年生だった2020年8月31日。竣工は今年の4月(成瀬たちは高校3年生)だから、解体から建設まで約3年半掛かっている。

 2025年夏、大学生になった成瀬がアルバイトをするスーパー「フレンドマート大津テラス店」(作中では大津打出浜店)へ度々クレームを入れている呉間言実とその夫・祐生が住んでいる。マンションを購入したのは2024年ということだったので、既に入居済みかもしれない。ということは、もうフレンドマートへのクレームも始まっているのかも。

 グーグルマップ上で「西武百貨店跡地」として表示されるのはもう少し(1区画)琵琶湖側で、そこは「シエリアシティ大津におの浜」のモデルルーム展示場や駐車場、一部は空き地のままになっている。

 『島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う』。成瀬の物語はこの場所から始まった。

 成瀬と島崎のマンションは後述する「Oh! Me 大津テラス」方面から見てびっくりドンキーの奥にあるということだった。2024年現在で築20年のマンションで、琵琶湖とは反対側の山が見える南向きの部屋らしい。駅からは徒歩で10分強、西武大津店跡地からは2、3分の場所である。彼女たちにとって西武がいかに身近な存在であったかは想像に難くない。

 ときめき坂方面へ戻り、「Oh! Me 大津テラス」へ。

 想像よりはるかに大きなショッピングモールである。

 大学生になった成瀬がアルバイトをしているスーパー「フレンドマート」(平和堂)は1階に入っている。

 ゼゼカラがときめき夏祭りでの漫才用に考えた地元あるある「平和堂の入口にある自動のアルコール消毒がめっちゃ出る」は本当だった。成瀬は余った分を顔につけているらしいが、私は怖くて出来なかった。

 お店の一角に成瀬コーナーがあり、フレンドマートの制服を着て記念撮影が出来たり、成瀬へのメッセージを書けたりする(読者様のお声)。

 私も成瀬へのメッセージを書いた。

 このメッセージコーナーは「やめたいクレーマー」(『成瀬は信じた道をいく』第3章)のオマージュだろう。関西らしい遊び心である。

 呉間言実がクレームを書いていた「お客様のお声」コーナーも実在する。彼女は備え付けのものは使わず自前の書きやすいボールペンを用意するほど熱心にクレームを書いていた。これだけの説明だと作品を読んでいない方はめちゃくちゃ嫌な奴を想像するだろうが、実際にはツンデレ系の憎めないキャラクターである。

 同じく1階にフードコートがある。ときめき小学校の「ときめきっ子タイム」(総合学習)で地域で活動する人を取材して紹介するという課題が出て、4年生の北川みらいはときめき夏祭りでなくした財布を一緒に探してくれたゼゼカラを取り上げることにした。この一連の取材がきっかけで彼女は成瀬に魅せられ弟子入りすることになるのだが、その最初のインタビューの場所がこのフードコートである。

 取材時、成瀬はフードコートを使うためにフレンドマートで好物のおやつ昆布を買って食べていた。私は昆布が食べられないので、併設されている「ドンクエディテ」でシュトーレンと珈琲を購入。さすがはドンク、シュトーレンがとても美味しい。

 オーミーでの糖分補給と休憩を終え、琵琶湖に出る。近くを通ったついでに眺めたことはあったと思うが、本格的に観光するのは初めてである。

 海のような広大さがありつつも、波はなく潮の香りもしない。不思議な感覚である。

 湖畔を歩いて大津港へ。作品内でも紹介されていた「うみのこ」が停泊している。

 琵琶湖の生き物や水質について学べる学習船で、滋賀県内の小学5年生は全員乗るらしい。

 時刻は12時30分。後編へ続く。



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