頭狂奸児唐眼(Talk You All Tight)/渡辺香津美(1981)
1. No Halibut Boogie
2. Mars
3. Bronze
4. Talk You All Tight(Dedicated to the city of Tokyo)
5. The Great Revenge Of The Hong Hong Woman
6. Never Hide Your Face
7. Bathyscaphe
8. Kang-Foo
先日、とあるスナックにいた男の客(もちろん知らない人だ)と会話をした所、彼もドラマーだという事が分かった。互いにドラマーであると認識した次の瞬間、彼は僕にこう訊ねた 「で、あなた、4ですか?8ですか?」 年齢を聞いているのではない(分かってるって)。要するに、「4ビートをやってるのですか?それとも8ビート?」、つまりジャズなのかロックなのかを聞いている訳だ。で、仕方ないので僕が「8が多いですね」と答えると、彼はふむと頷き、「自分は16なんです」と言った。彼はフュージョンをやってるらしい。「そうなんですか」とだけ、僕は言っておいた。別に4だろうが8だろうが16だろうが、はたまた32だろうが、そんな事はどうでもよろしい。
気のせいか、最近こういうの多いのだ。バンド(ドラム)やってる、というと「ジャズですか、ロックですか」と聞かれる。「コピーですか、オリジナルですか」と聞かれるのならともかく、いきなりジャンルを知りたがる人たち。以前にも書いたけど、ジャズにコンプレックスを持つ人たちは、ミュージシャンと見ると、まずジャンルを確認する。「ジャズ」だと言えば、「私ジャズ大好きなんですよ」となるし、「ロックだ」と言えば「あーそうですか。ジャズは聴かないんですか」となる。どうでもいいだろ、そんなことは。
そういう、二言目には「ジャズだロックだ」と言いたがる連中に、是非とも聴かせてやりたいのが渡辺香津美である。デビュー時から、「ジャズ」あるいは「フュージョン」の括りの中で紹介されてきたミュージシャンだが、その音楽はジャンル分けなんてものが虚しくなるくらい、多種多様だ。彼は、ずっとギターの可能性を追求し続けてきており、プレイする音楽はギターで表現する為の素材に過ぎない。だから、自身をジャンル分けするなんて無意味だし、またそういうのを超越してしまっている人なのだ。あんなのジャズじゃない、と言う人も確かにいるけどね(笑)
この『頭狂奸児唐眼(Talk You All Tight)』は、清水靖晃(Sax)、笹路正徳(Key)、高水健司(Bs)、山木秀夫(Ds)、の凄腕4人と共に作られたアルバムで、渡辺香津美名義にはなっているものの、“Kazumi Band”というバンドのアルバムと言ってよかろう。実際、このメンバーでライブ活動も行い、次作『Gaenesia』はKazumi Band名義になっている。
中味は、ジャンル分け不能のインスト・アルバムだ。この頃、笹路正徳のインタビューを雑誌で読んだ事があるが、彼はKazumi Bandのコンセプトを聞かれて、「とにかくインスト。何でもいいから、インストを徹底的に追求する」と答えていた。その言葉の通り、この『頭狂奸児唐眼』は様々なインストが詰め込まれている。個人的には、6以降つまりLPで言うならB面が好きだ。ハードなギターのリフが炸裂する、意味不明なタイトルの「The Great Revenge Of The Hong Hong Woman」、フレットレス・ベースが哀メロ(Cジャスミンさん)を奏でる「Never Hide Your Face」、シンコペーションビシバシのフュージョンチューン「Bathyscaphe」、もろ4ビートの「Kang-Foo」、どれもカッコいい。けど変態チック(笑)そこがまたいい。各人のテクニックはもちろん超一流だが、上手いだけでなく、何でも飲み込んでしまう度量の深さ、みたいなものがある。これは感性の世界であり、練習したって身につくものではなかろう。凄い連中だ。
このアルバムは、割に曲が分かりやすいこともあって、ジェフ・ヘックのアルバムに通じる雰囲気もあるが、次作はより一層変態度を強めている。このkazumi Band解散後も、渡辺香津美はあらゆるタイプのミュージシャンと組んで、意欲的な作品を発表し続けており、ひたすらギターの可能性を追求する姿勢にぶれはないのである。やっぱり凄い人だ。
そういえば、「君、ジャズなの、ロックなの」と聞く人たちの口から、渡辺香津美の名前が出た事はないが、きっと狭い世界に捉われている人には、彼のやってる事はさっぱり理解出来ないのたろう。と思って優越感に浸りたい(爆)