エモーショナル・レスキュー/ローリング・ストーンズ(1980)
1.ダンス
2.サマー・ロマンス
3.センド・イット・トゥー・ミー
4.レット・ミー・ゴー
5.悲しきインディアン・ガール
6.ボーイズ・ゴー
7.孤独の中に
8.エモーショナル・レスキュー
9.氷のように
10.オール・アバウト・ユー
ストーンズについて書く時は、なんとなく自分のことを“俺”と呼んだ方が、感じが出るような気がするので(笑)、今回に限り“俺”でいってみよう。
俺は、あまり人前では言わないけど、実はストーンズも大好きなのだ。大学時代、ストーンズのコピー中心のバンドを3年間やってたし、東京ドームへも4回見に行った(1990、1995、1998)。ほとんど後追いだけど、CDもかなり持ってるし、新譜が出れば必ず買う。クイーンやフォリナーほど熱狂的ではないが(笑)、とにかくストーンズも好きなのだ。
俺が初めてストーンズを聴いたのは、1976年に出た『ブラック・アンド・ブルー』だった。ただ、確かに発売当初は話題になってたけど、ちゃんと聴いたのは発売されてから、約一年後だったが(笑) もちろん、「サティスファクション」「夜をぶっとばせ」「黒くぬれ」といった有名曲は知ってた。でも、「夜をぶっとばせ」は本家より、デビッド・ボウイのカバーの方をよく聴いてたかもしれない(笑) そういえば、当時よく聴いてたAMの洋楽ヒットチャート番組で、3位の曲を紹介する前にちょこっと「黒くぬれ」のイントロを流していたっけか。おっと脱線(笑) で、その、初めて聴いた『ブラック・アンド・ブルー』のなんとカッコよかったことか。1曲目の「ホット・スタッフ」でもうイチコロ。ロックを聴き始めて早や30年以上になるが、A面の一曲目だけでノックアウトされてしまったアルバムなんて、そうあるものではない。今思い出せるのでも、『オペラ座の夜』『ブロウ・バイ・ブロウ』『マシン・ヘッド』これくらいだ。と、それくらい『ブラック・アンド・ブルー』のインバクトは強烈だったのだ。もちろん、「ホット・スタッフ」だけでなく「ハンド・オブ・フェイト」「メモリー・モーテル」「クレイジー・ママ」と、ストーンズ裏名曲が目白押し。いやほんと、毎日のように聴いてた。友人から借りてたんだけどね(爆)
この後しばらくして、『ラブ・ユー・ライブ』が出た。当時の邦題は『感激!偉大なるライブ!』だったっけなぁ。これも友人から奪うようにして借りてきて聴いた。『ブラック・アンド・ブルー』のイメージとはやや違ったけど、でもカッコよかった。ただ、その頃になんとなく気づいていたのだが、俺はストーンズを好きになったはいいが、どっちかというと70年代の曲の方が好きで、60年代の曲はあまり好きでなかった。なんか、音が軽い感じがしたのだ。ま、数十年もあとになって分かったのだが、俺はきっと、アメリカ南部的なアプローチを試みつつ、リズムの面白さにも目配りしていた頃のストーンズが好きだったのだろう。『ラブ・ユー・ライブ』は、そんな70年代型ストーンズの集大成であり、悪くない訳がないのだ。今でも、この時期のストーンズが一番好きだな。
で、いきなり話は飛んで、この『エモーショナル・レスキュー』である。このアルバムが出たのは、俺が高校3年のときだ。ストーンズの新譜が出た、という話を聞いてすぐ友人に電話した。そう、『ブラック・アンド・ブルー』と『ラブ・ユー・ライブ』を貸してくれた友人だ(笑) 「ストーンズ、買ったか?」「買ったよ」「貸してくれ」「いいよ」 で、翌日ヤツの家に行って借りてきた。けど、LPを俺に渡す時、ヤツは「あまり期待するなよ」と言った。確かにそう言ったのだ。はて? 今度のストーンズはつまらないのか。そんなこたねーだろ、といそいそと家へ戻り、早速針を落とす。一曲目は「ダンス」。う~ん、やっぱカッコいい。このリズムがたまらない。合い間に切れ込んでくるギターもいい。なんとなく不穏な雰囲気。呪術的なコーラス。素晴らしい。さすがストーンズ。期待するな、なんて一体あいつは何寝ぼけた事言ってんだ。なんて既にトリップしてるうちに、「ダンス」は終わり、2曲目の「サマー・ロマンス」が流れてきた。えっ?あれ?何????...ここでヤツが、期待するな、と言った意味が分かった。
要するに、ヤツは俺の趣味を分かっていたのだ。ストーンズに何を期待しているのか、という事も。今度のストーンズの新譜は、お前が期待するような内容ではないよ、とヤツは俺に言いたかったのだ。「サマー・ロマンス」は、いかにもストーンズってな感じのロックンロール調の曲だった。正直言うと、拍子抜けした、というか腰が砕けた。その後に続く曲たちも、俺の好みとは少しづつずれてるのばかりだった。確かに、少しがっかりした。俺の聴きたいストーンズはもこういうんじゃないんだ、と思った。で、テープに録音するとすぐ、俺は友人にLPを返しにいった。受け取りながらヤツは「どうだった」と俺に聞いた。「今イチ」と俺は答えた。
とはいうものの、次から次へと新譜を聴きまくる事が出来た訳ではない。なので、今イチと思いながらも、俺はことあるごとに『エモーショナル・レスキュー』を聴いた。そして数回聴いた時、こういうストーンズも決して悪くない、と思うようになったのだ。「センド・イット・トゥー・ミー」のふざけた歌詞とベタなレゲエのリズムが心地よくなった。「ボーイズ・ゴー」で素直にレスポンスできるようになった。タイトル曲のファルセットと後半の低音のアナウンスに快感を覚えた。しんみりと「悲しきインディアン・ガール」を聴けるようになった。こうして、いつの間にか、『エモシーョナル・レスキュー』は思い出深いアルバムとなってしまったのだ。
考えてみると、このアルバム、ストーンズの作品の中では地味な部類だろうと思う。後年、大学でストーンズのコピーを始めた頃、ストーンズ好きと言いつつ、実は『エモーショナル・レスキュー』は聴いてない、というのもいた。あの頃、ストーンズは一枚のアルバムを作るために100曲近くをレコーディングし、ミックスも済ませてから、10曲前後を厳選してアルバムとして発売し、残りの90曲はお蔵入りにする、という伝説があり、だからストーンズのアルバムは質が高いのだ、とすら言われていたのだが、『エモーショナル・レスキュー』を初めて聴いた時、とても100曲から厳選された10曲、という感じはなかった。拍子抜けしたのは、俺だけではなかったのだろう。ストーンズのアルバムだし、実際には売れたのだが、そういうイメージが薄い。前後を『女たち』と『刺青の男』という、ストーンズのキャリアを代表する大ベストセラーに挟まれているせいかもしれない。
でも、それだけに、今となっては、俺はこの『エモーショナル・レスキュー』に愛着を感じる。それを身をもって示すため、未だに『女たち』と『刺青の男』は買っていない(なんのこっちゃ)。地味かもしれない。でも、アメリカ南部にどっぷりだった70年代も終わり、違う方向へ目を向け始めたストーンズが、ちょっと新しい事も試しつつ、肩の力を抜いて、一息入れて気楽に作ってみました、という雰囲気が感じられる。聴けば聴くほど味わい深い曲も多い。特にラストの「オール・アバウト・ユー」、キースの歌がこんなに沁みるなんて、初めて知った。正に隠れた名曲。他の曲だって、現在に至るまで、ライブで演奏され続けている、という曲はないけど、けど決して無視は出来ない曲ばかりだ。ま、逆の見方をすると、この程度のアルバムならいつでも作れます、といったストーンズのふてぶてしさを感じるアルバムでもある。フリートウッド・マックの『ミラージュ』もしくはウィングスの『バック・トゥー・ジ・エッグ』みたいなもんか(ふたたびなんのこっちゃ)。ま、とにかく、この『エモーショナル・レスキュー』誰が何と言おうと、俺のフェイバリットの一枚だ。この後、『刺青の男』が出るまでのインターバルが短かったのも、きっと意味ある事なのに違いない。
せっかくなので、おまけ(爆)
さきほど、大学の頃ストーンズのコピーをしてた、と書いたが、一体どんな曲をやってたのか、思い出せる範囲で並べてみると、
Brown Sugar
Bitch
Crazy Mama
Live With Me
Hang Fire
Get Off Of My Cloud
Dance Little Sister
Star Star
Sympathy For The Devil
以外と少ないな。ま、ストーンズばかりやってた訳ではなかったけど(笑)
しかし、ストーンズをネタに、こんなに長い文章を書いてしまうとは!(爆)