ワーッと、何人かの遊び仲間のグループで墓所を駆け抜け、私は一番後に着くような感じで皆を追いかけていた。今日は寺の後方にある生け垣や石造りの土台を乗り越えて、新しく境内への侵入経路を覚えたのだ。私が一番の年少らしく、背丈も要領も物慣れた少年達から後れを取り、私は這う這うの体ですぐ前を行く史君の背を追っていた。が、史君も速い。垣根を超えるまでは時折振り返ってこちらの様子を気にしてくれていた彼だが、墓所に足を踏み入れた途端、ちらっと私に一瞥をくれたが最後、ぴゅーっと走りに力を込めるとどんどん私から遠ざかって行った。
私はせっせと縺れる脚を踏みしめ踏みしめ彼の後を追ったが、彼は既に本堂の建物の角に達し、そこでややハッとした感じでスピードを緩めたものの、私を待つ事もせずすぐに角を曲がって向こう側へと姿を消してしまった。私は未だ本堂のこちらの端に掛かった所だというのに…。
『やれやれ…。』
慣れない石垣をよじ登り、今度は土肌の地面を疾走して、皆良くあんなに素早く移動できるものだと私は呆た。私は内心、こんな事全く初めてなのに、もう少し待ってくれても良いじゃないか、と不満を漏らした。そして本堂の後ろをはぁはぁと息を吐きながよたよたと、自分ながら全力疾走しているつもりで走っていた。この時の私は自身でも足の遅さやのろさを感じ取っていたが、私の重い足はこれ以上は上がらず、前に進めた足先もよちよちとして一向に歩幅が広がらないのだ。進まぬ身に本堂の長さを否応なく感じていた。
それでも漸く曲がり角に達した私は、建物の側面を覗き込んだ。本堂の横の小道、小道の傍にはまだ墓石が数基続いていた。
「あれ?」
道の先には広く誰の姿も無かった。せめて何時も待っていてくれる史君だけでも1人いてくれると思っていたが、誰もいない。皆何処へ行ってしまったのだろう。道の先には遠く釣鐘堂の釣鐘の、青銅の塊ばかりが目に入る。私は本堂の木壁の左と墓石のある右を交互に見やってみたが、何方も何の変化も無く静まり返っていた。
私はほうっと一息ついた。可なり遅くても、一応全力疾走していた私はここで息を整える必要があったのだ。幸い方向を示すために待っている人も無く、その人の為に急ぐ必要も無い、ましてや皆の行先は皆目分からない。一息ついた私はこれから如何しようと思った。家に帰ろうかな。
今日はまだ皆と外遊びを初めて間もない時間だった。帰宅するには可なり早いと思ったが、1人でここで佇んでいてもしょうがない。外遊びの初体験で思いがけなく疲弊した私が、これから自分の行くべき場所はと考えた時、それは自宅だとしか思い浮かばなかった。家に帰ろうと私は決意した。だって皆の行き先が分からないのだもの。皆小さな私を待っていてくれなかったのだものと。あれこれ不足を並べながら、早い帰宅の家族への言い訳を考え、私は墓所から続く墓参りへの道に足を踏み入れた。その道を一般の墓参りに行くのとは逆に辿り始めた。
「お待ちしていましたよ。」
男の人の声がした。えっと声の方向に私が目を遣ると、住職さんが本堂の土台の石垣にもたれて腕組みなどしている。そこに人がいるなど思いもしなかった。否、私がこの道の先を見やった直前にも彼の姿は私の目に入らなかった。
あれぇ?と私は思った。不思議な事だ、住職さんは何処から降って湧いたのだろうか?何とも奇妙な気がしたが、すっきりと物を考える為には、私の頭は未だ疲弊し過ぎていたようだ。ぼーっとしたまま私は住職さんの近くへと歩み寄った。そして彼をを見上げた。