Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 16

2019-07-16 11:30:22 | 日記

 史君と住職さんが話を続ける間、私は家に帰ったら父に何と言お礼の言葉を言おうか、また、謝罪の言葉は何と言ったらよいかとそればかり考えていた。この頃は父の気質も存外に分かり、私は父が気持ちよく上機嫌になる言葉の組み合わせ等考えていた。

 ああ言えばよいかな、こう言ってからこう言うともっと喜ぶに違いないとか、礼を先に言うか、謝罪が先か、等々、様々な父と私の会話の場面を想定して、私は父の感情の起伏から喜ぶ過程に至る迄で、彼に一番の歓喜をもたらすに違いない会話順や物言いを想像した。父の喜ぶ姿を想像すると、私は自然ニヤニヤとにやけてしまう。

 「慢心してはいかん。」

住職さんの声が私に向かって発せられた。私はその声の急な大きさにハッとして彼の方を見た。彼は私の方に顔を向け私を確りと見据えていた。はたして、それは私に向けられた言葉だと私は理解した。

「どんな時に置いても、決して慢心してはならん。」

続けて住職さんは言った。私はその言葉が分からなかったが、慢心だよ、慢心と住職さんが繰り返してくれたので、即、覚えて家に帰って父に問い掛けた。勿論、史君の処遇へのお礼と、自分の外出時の父への非礼を詫びてから後の事だった。

 「慢心とはなぁ。」

小さい子に言葉を教えるのは難しくて、そうぼそぼそ不平を言いながら、父はまあ、それはだなと、勝って兜の緒を締めよというようなものだと教えてくれた。どんなに相手より優位な立場に立っていても、喜んで油断してはいけないという事だ。そんな事を言って、分かったかと言う。兜は分かっても、兜に何故尾が付くのか?本物の兜を見た事が無い私には想像が付かなかった。唯、私の顔色を見て、父はうんうんと、「勝っても負けた相手には油断するな、負けた相手はその後うんと頑張って、次には勝った相手が負かされるかもしれない、勝った人間は、勝っても今までと同じにちゃんと努力して行かないといけない。」そんな事をつけ足してくれた。

 勝っても努力は続けないと、その時負けた相手に、次か、何時かその内に負けるかもしれない。負けた相手は尚更に、今迄以上に努力しているものだ。だから、勝った相手も何時も努力していないといけないんだ。そんな父の説明の言葉に、私は果てしない抗争の労力や苦労が思いやられて、想像するだけで苦しくなり、気の遠くなるような酷い疲労感を覚えるのだった。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-07-16 11:11:45 | 日記
 
土筆(130)

 若い方の男性はふふんとニヒルな感じで曖昧に笑って見せました。彼はしばらく無言で俯いていましたが、間も無くふっと気付いたように「否、そうじゃないよ。」と、顔を曇らせると沈ん......
 

 今週は、こちらも梅雨空に覆われそうな週間予報でした。梅雨明けは遠そうですね。