Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 26

2019-08-02 08:40:02 | 日記

 「どうやったら指を長くしたり短くしたり出来るの?」

私は目を輝かせると喜々として、母の演じた指を伸び縮みさせるという見事な手品の技の秘密を尋ねた。

 急に愉快に笑っていた母の笑顔が引っ込み、眉に皺を寄せた神妙な顔付きに変わった。

「指?、って…。」

お前、指の話なんてどこから出して来たんだい。と、解せないという顔付きで母は反対に私に問い掛けて来た。

「今、指が短くなって、また長くなったじゃないか、お母さんの指。」

私は母の指の話だと言うと、教えて、ね、その方法を教えてと、こういった事に対して子供に常の、非常な好奇心に駆られる儘に抑え難く、いかにも彼女におねだりするのだという風に頼むのだった。

 すると母は、ほうっと一つ溜息を吐くと肩を落とした。そうして暗い表情で俯いた。その姿はしょんぼりとして落胆する姿でしかなかった。

「とんだお馬鹿さんだったのだ…。」

そんな事を呟くと、彼女の表情の中に怒りの感情が湧いているのを私は察知した。何故だろうか?。私は今、喜々として目の前でおこなわれた母の手品を褒め上げたではないか。母が怒る要素等全然無い筈なのだ。

   「如何したの?、お母さん怒ってる?。」

それなら、何故怒っているのかと私は尋ねた。母は、お前私の言う事を聞いていたのかと言い出した。本当にぷりぷりとした様子だ。私はキチンと聞いていた。だから真剣に母の言う通り指を見詰めていたのだ。私はその事を順序立てて話した。そうして見た通りその儘に実演してみせた。

   ね、ちゃんとお母さんのした通りに出来たでしょう。そう言うと、母は渋い顔をしてそれはその通りだけどね、と、余計に顔を曇らせると一人考えの淵に暗く沈んだ。

   暫くして母は、

「話を聞くのは聞くで、それで出来ているのだろうけど、…。」

と、言いにくそうに、お前何だか鈍くないかいと言う。今度は私が腹を立てる番だった。

   何を言うのか、私はお利口さん、賢いと言う事で通っているのにと反論すると、母はさも可笑しそうに紅潮した私の顔色を伺っていたが、

「それは家の中だけの事だ。」

そうなんだねぇと言って、心得た、ここぞとばかり、唖然とする私の顔が如何にも間抜面で可笑しい、さも可笑しいと言う風に口に手の甲を当てると、ヒャハハ…、と声に出して笑った。

   私はこの母の態度に、子供といっても如何にも相手に馬鹿にされ、非常に嘲られたのだという状態が察しられた。カッ!とばかりに赤面すると、それは母がきちんと自分に理解出来るように説明しないからだ、子供にちゃんと分かるように説明しろ、初めての事は簡単に言ってくれないと分からないだろう、と、口から泡を吹くような勢いで、矢継ぎ早に攻め文句を言った。