Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 36

2019-08-21 09:31:53 | 日記

 だが、1回位は私も封建時代の親になってみるかな。自分の子供の時にはあの親でそう育ったんだから。今回こうなったのもお前が原因だし、一つお前に意趣返ししても罰は当たらないだろう。そんな事を言うと父は私を見てニヤリとした。

 先程母から彼が受け取った冊子が階段の上り口に重ねられて置いてあった。彼はその内1冊を手に取った。それを手でごりごりとしごいてみる。次に丸めると彼自身の腕にポンポンと音の響きよく当ててみた。彼はその感触を確かめるとこんな物かなと呟いた。

 「智ちゃん、こっちにおいで。」

父が笑って手招きするので、私は一体何かしらと思った。父曰く、よい物を上げるからこっちにおいでと言う。それで私は上から下と父を眺めて観察してみた。父の普段と変わった所、手に持った物というと、冊子だ。冊子が丸まっているのが妙に感じられた。いつもきちんとしている父にしては物を粗雑に扱っていると私には感じられたのだ。でも、父がああ言ったからには手の本は何か良い物なのだろうと私は思った。私はにこにこすると、何時も菓子など貰う時の様に揉み手をして父に近付いて行った。

 「お前、その本で何をする気なんだい。」

不意に部屋の入り口に祖母が姿を現して言った。彼女は祖父と共に外出したと思っていた私は、おや!と驚いた。父は身動きできずにいたらしい、固まった形の儘やや背を丸めて向こうを向いて俯いていた。本は手に掴んだままだった。

「それで何を初めようというんだい?。」

祖母は再び言うと、彼女はその儘部屋の中に踏み込んで来て、こんな事だと思ったと言いながら息子の手から本を取り上げた。

 私は今さっきお前をぶたなかっただろう。お前の子供の頃にだってそうは叩かなかった筈だ。他の兄さん達もそうだよ。確かに一郎は長男だったから気負いもした、幼い頃には少々手を掛けたけどね、それも若気の至りだったと今は思っているくらいなんだ。それにしたって、あれのほんの幼い頃だけだったよ。

「お前にはこんな物で殴った事無いだろう。」

止めなさい。そう言うと、彼女は本を息子に指し示し、これは貰って行きますからと片手に下げて部屋を出て行こうとした。

 ちょっと待ってくれ、母さん。息子は出て行こうとする母を呼び止めた。

確かに、母さんからは直接叩かれた事はないよ。でも、そういうのは順繰りなんだよ。上の兄さんから下へ、下の兄さんからその下の兄さんへ、それで…、彼は言い淀んだ。

「それで、お前…。」

打たれたのかいと母は聞くと、彼は遠慮がちにうんと頷いた。

「誰にだい?。」

上?次?その次?かい?そんな祖母の言葉が並ぶのを、私は意味不明のまま聞いていた。

 私の父は「上の兄さんは年が離れていたからそうでもない。」と答えた。祖母は意外そうな顔で、へーっと言うと、あの子が?、兄弟でも一番大人しい子だと思っていたが、隠れてそんな事をしていたなんて。と放心の体であった。しかしその後程無く、彼女は外に待っている夫を気にしたのだろう、

「兎に角、詳しい話はまた今度だよ。」

父さんが待っているから私はもう行くよと言うと、「お前も言い分が有るんだろうけどね、でも、子供に乱暴しない様にしなさい。自分の子供は特に大事にしておやり。何時なん時また戦争が始まって、家の誰がどんな事で命を落とすかしれないじゃないか。」

家では次郎がそうだっただろう。彼女はそう溜め息交じりに言い残すと、くるりと息子に背を向けた。彼女はややしんみりとした感じを漂わせながら手に冊子を持ち、急ぎ、今度はぱたぱたがらがらばたん!と、本当に玄関から外に出て行った気配だった。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-08-21 09:26:54 | 日記
 
土筆(162)

 それでも蛍さんは、何かしらの答えを求めて木戸をじーっと見詰めてみました。そうする内に彼女にはあの木の戸の裏側には何か目に見えない物、土筆以外に隠された秘密が有るような気がしてくる......
 

 今週は雨足が酷くなるという予報の北陸地方。外出予定が立たなければ、来週予定を組むかな。