この時の私に、絶望感だけしか無かったかというと、実はそうでは無かった。それは祖父の言った言葉、「その子じゃ無いんだ。」が私にも聞こえ、その一言が私にほんの微かな期待を抱かせていたからだった。
『祖父は私が犯人じゃないと分かってくれているのだ。』
そんな希望が私の胸に膨らんで行った。
父が祖父母の部屋に消えてから、私は祖父のこの言葉を胸に何度か蘇らせ、考えてみた。すると、その子と言うのはきっと私の事に違いないと思えた、確かに、穴を開けたのは私じゃ無いと祖父は言ってくれたのだ、こう私は確信を持った。それには、隣の部屋にいた祖父の声が、障子のこちら側にいた父と私にちゃんと伝わって来たという事実があった。きっと母と私の遣り取りも、障子の向こうの祖父に聞こえていたに違いない。もしかすると、祖母にもちゃんと伝わっていたのかもしれない。私はこう考察した。
それにしても、私はにっこりした。祖父がちゃんと父に事実を言ってくれた事が嬉しかった。今迄の私にとって、母の言動や父の誤解が相当ショックを与えていたので、祖父が父に取り成してくれたという、祖父の厚意が身に沁みて嬉しく感じられた。
私の目に溢れてくる物があった。今の私より、両親の態度で痛手を受けた先程の方が私の悲しみは深かったのに、今の私の気持ちの方が明るく軽くなり嬉しいのに、何故、涙の量が多くなったのだろうか?、私はこの事を不思議に思いながら、溢れて来る涙を手の甲で拭っていた。その内、迸る様に様々な感情が胸に咳上げて来た。
うわーん、
感極まったのだろう、私は声に出してえっ、えっ、と泣いた。この時の私は自分で涙を声を止める事が出来なかった。当然隣の部屋でも何かしら大人達は反応していたが、泣いている私には中の様子など推し量り様が無く、すぐには家族の誰も私の傍にやって来なかったので、私はしゃくり上げながら暫く1人で泣き崩れていた。