Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 34

2019-08-17 14:13:34 | 日記

 「父さんだって、」

息子は言い返した。自分勝手な見解で早合点しないでくれ。昔からそうだ、

「だから兄さんだって…。」

彼が言いかけたところで、不意に彼は母に袖を掴まれその後の言葉を言い淀んだ。

「兄さんだって、何だい?」

父はそう問いかけたが、いや何でもと息子は言い、口の中に有る言葉をぐっと飲み込んだ。息子のその様子に、父は何だいを繰り返すと、言いたい事があるなら言いなさいと言い出したが、息子の方はやはり押し黙ったまま俯いていた。その為父の方も無言で考え込んでいたが、彼は目の前の不穏な妻子の様子から何事か決断したのだろう、遂にこう言い出した。

「四郎、お前もさっきの件では言いたい事があったんだろう。」

さっきの件ではこちらの意見を通してもらったから、今回はお前が言いたい事を聞こうじゃないか。父はこう言うと、

「お前の忌憚のない意見を言いなさい。言いたい事を言いなさい。聞こうじゃないか、私はお前の父親なんだからね。」

と息子の中断した言葉を続けるよう催促した。

 しかし、事態は相変わらずで、その儘3人無言の儘で時は過ぎるように感じられた。が、ふいと母が言い出した。

「いいよ、言ってごらん。」

お父さんが良いというのだから、お前が思っている事をお言い。言ってご覧よ。息子の言葉を止めた母もこう許しを出した。息子は母に言っていいのかいと念押しすると、そうか、と彼女に頷き決断した。そこで彼は思い切って今まで胸に溜めてきた物を吐き出し始めた。

「じゃあ言うよ。母さんもいいと言ったからな。」

ここで、彼らの息子である私の父は、彼の目の前にいた祖父に向かって話し出した。

 父さんは昔から仕事で家に殆ど居なかったじゃないか。たまに帰って来ても、家にいる時は文句ばかりだ。勉強しろとか、兄弟喧嘩するなとか、果ては小遣いにまで口出しするだろ、そんな物無駄遣いだとか、理由も聞かずにいつも頭ごなしに怒鳴るだけだったろ。

「ちゃんとそうなった理由を聞いてくれよ。」

そこまで言うと、私の父は感極まったのか声が震えだし、口に手をやると、うう…と、どうやら嗚咽が漏れるのを抑えているようだった。

   そこで、私は父が泣いているのではないかと感じた。祖父母と父、喧嘩しているのだろうか!?。私はそんな風に考えたが、また、私には皆が本当には争っていない様にも感じられた。3人の中に親子の和という物を見たのだ。父も祖父も笑っていた、父と祖母も笑っていた。そして祖父母も同様に笑って互いに目配せしていた。

 「分かったよ。」

「以降は気を付けるよ。お前からちゃんと言いたい事を聞いたからね。」

祖父はそう言うと、じゃあもう行こう、遅くなるからね。そう自分の妻である私の祖母を促した。彼は妻の背を押しちらっと私にも目をやると、

「やぁ、智ちゃん、お父さんを頼んだよ。」

そう言うと、孫に息子の事を頼まないといけないなんてなぁ。なぁ、母さん、如何思う。そんな言葉を零すと、祖父母夫婦は何思う所無い様子でさり気なく玄関へと消えて行った。

 一方私は、祖父の残した私への言葉を果たそうとした。

『父を見ていなくては。』

私が父の傍へ行こうと歩き始めると、祖母が父の所へ戻って来た。彼女は、父にお前が悪いよ、一郎の事を言い出したりするから。と一言だけ言った。父は顔を強張らせると、兄さんは1人だけじゃない、他の兄さん達だってと言い出した。祖母はその息子の言葉を腕を掴んで押し留めた。

   祖母は父に歩み寄ろうとしていた私に顔を向けてほほ笑んだ。

「智ちゃん、いい子だね、向こうの部屋で待っててくれるかい。」

祖母は私に先程の場所、居間へ戻るよう指示した。私が振り返って居間へ戻る道すがら、後方からバンバンと何か叩く音が聞こえた。本で机を叩くような音だった。

「親に口答えするから。」

そんな子はこうなるんだよ。祖母のややきつい言い方の声が私の耳に聞こえていた。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-08-17 13:59:28 | 日記
 
土筆(155)

 しかし、自分の石の有る場所へ向かい、その儘その場で皆に背を向けて、しょんぼりと項垂れたままでいる無言の蜻蛉君の姿に、蛍さんの内心の笑いは引いて行くのでした。 蛍さんには内心、......
 

 台風一過、室内に吹き込む風が少し涼しく感じます。