蝶ちょう(10)
違うという言葉を口から出そうとして、焦った私は到頭全く呼吸が出来無くなりました。口に何かビニールの様な物が張り着いてでもいるかのようでした。全然口で空気を吸う事が出来ないのです。......
昨日は良いお天気でした。頑張って床の間を掃除して、お鏡を飾りました。
蝶ちょう(10)
違うという言葉を口から出そうとして、焦った私は到頭全く呼吸が出来無くなりました。口に何かビニールの様な物が張り着いてでもいるかのようでした。全然口で空気を吸う事が出来ないのです。......
昨日は良いお天気でした。頑張って床の間を掃除して、お鏡を飾りました。
「お母さんと、私は似てないと思うけど。」
私は不満気におばさんに反論した。この点については納得できない。否、したくなかった。するとおばさんは非常に驚いた顔をした。えっ!という具合だった。
「似て無いの?、あなた達。」
と言うとまじまじと私の顔を見詰めた。
おばさんは何やら考えている風だったが、くしゅんという顔付をして、冗談?と小声で私に訊いて来た。そこで私は全然と答えると、更に不機嫌そうな顔を彼女に向けた。するとおばさんはまた考え込んでいたが、
「もしかすると、鏡を見た事無いの?」
とか、家に智ちゃん用の鏡が無いんだ、等とぶつぶつ言っている。
今度は私の方が訳が分からず顔をしかめる番だった。
「鏡は毎日見てる。私の鏡は無いけど…。」
と、答えると、私はおばさんが何を言いたいのだろうと訝った。「一体おばさんは私に何が言いたいの?。」と訊いてみた。この私の問い掛けに、おばさんの方は、ははぁんと言うと、如何にも納得したという様子で自覚の方が無いんだね、と言った。
すると、
「滅多な事を言うもんじゃない。」
と、店の奥からこちらに向かってご主人が声を掛けて来た。
「お前、お向かいの坊ちゃんの事を忘れたのかい。」
「何でも言って、如何なったのか覚えてるだろうね。」
俯き加減で物を言うご主人の声は、下にこもった様な感じで通らないが、私達のいる場所までは十分に聞こえて来た。おばさんはちらっと顔を傾けてやや後方を向くと、後ろのご主人に無言で視線を投げ掛けていたが、やや間を置くと不満そうな顔付きでこちらに向き直った。
「誰でも言いたい事は言いたいよね。」
私に向かって、彼女は同意を求める様に不平そうに零した。彼女は嫌々をするような感じで腕を曲げると拳を握り、彼女の胸の前に持って来た。そして2、3回軽く前後に身を捩った。 そんな彼女の様子を、ご主人は離れた場所で俯いていても見逃さなかった。
蝶ちょう(7)
「いいわ、私が証人だから。ちゃんと捕まえるところを見ていたんだから。」私はその子がそう言う言葉を夢の向こうの言葉の様に聞きながら、ぼーっとして何事も無げに只微笑んでいました。......
今日は寒くなりました。朝から冷たいケーキを食べて、お腹が冷えてしまいました。
蝶ちょう(6)
私は周囲の日の陰りに、太陽が落ちて夜の来る事が近い事を悟りました。また、自分の手が固く、感覚が無く、このまま蝶の羽を摘まんでいると大好きな蝶の羽を傷めてしまいそうだと考えました。......
今日は良いお天気です。上皇様の誕生日ですね、おめでとうございます。うららかで穏やかな日です。
蝶ちょう(5)
それはその年の秋も深まって、その後待ち受けている寒い季節を予感させるような夕刻の頃だったと思います。幾ら動きの鈍い白い小さな蝶とは言え、幼子の素手に捉えられるような蝶の状態の時期......
暫く、「今日の思い出を…」だけになるかもしれません。「うの華」は、体調不調でお休みになりそうです。