蝶ちょう(4)
ここで私が蝶に順位を付けたのはやはり父の影響でしょう。当時の世相だったのかもしれません。可なり後になる私の学校時代に、現代は競争社会だとよく言われていたものです。 その様な訳......
お天気は良かったですね。体調はあまり良くないです。現在は肘の調子と、腕の部分が不調です。日によって違うので、困ってしまいます。
蝶ちょう(4)
ここで私が蝶に順位を付けたのはやはり父の影響でしょう。当時の世相だったのかもしれません。可なり後になる私の学校時代に、現代は競争社会だとよく言われていたものです。 その様な訳......
お天気は良かったですね。体調はあまり良くないです。現在は肘の調子と、腕の部分が不調です。日によって違うので、困ってしまいます。
「ねえねえ、おばさん、おばさんなんでも知っているんだねぇ。」
「内の家では何があったの?、おばさん知ってたら私に教えてくれないかなぁ。」
私は柔和な笑顔を浮かべると、如何にもおねだりするという様に問い掛けてみた。おばさんの方はおやという感じになると、智ちゃん知らないのかい、と言う。
「知ちゃんたら、一緒に住んでるのに知らないのかい?。」
これはまた妙な話だね、ねぇ、お前さん。と、何やら店先に近付いて来たご主人に、如何にも自分達の話に彼を引き込むという様に声を掛けた。ご主人は云まぁと何やら自分の手を店前の机の所で動かしていたが、その内ひょいとこちらに顔を向けると、
「四郎ちゃんの事だろう。」
と言った。
そんなご主人に、奥さんは目で合図してこっくりと頷くと、ご主人は溜息交じりで手を動かし始めた。ねえねえ、お前さん。奥さんが再三声をかけると、俯き加減で机の側にいたご主人だったが、その内そろそろと私達の話している場所までやって来た。
「四郎ちゃんは何時もああでなぁ。」
仲間内の世間話のように、彼は徐に言いだすと、あんたさんの家がね、今日みたいにバタつく時は、決まって四郎ちゃんが原因なんだよ。大抵はそうだ。と溜息交じりで言った。そして奥さんに、じゃあ後は任せたよと言うと、二郎ちゃんがいてくれればなぁ、とか、奥さんも苦労だね、等呟きながら、また仕事の続きを続ける為か、元の机の有る場所へと戻って行った。
「分かったかい。」
彼の奥さんである。私の目の前に残ったおばさんは言った。
私は考えてみた。四郎ちゃんと言うと私の父だ、父が原因?、家がバタつく?、私には訳が分からなかった。そこで頭の中で、今ここのご主人が言った言葉を繰り返して推理してみるが、やはり何がなんだかさっぱり分からない。私には我が家で起こっている出来事が全く想像もつかなかった。
盛んに首を捻る私を見ておばさんは言った。
「鈍いねぇ。」
「まぁ、あんたのお母さんも、この辺りでは分からなかったらしいから仕様が無いか、親子だね。」
『お母さんと?…。』私は彼女の言葉の最後に顔を顰めた。
ここで出掛けてしまった私は、家の座敷で2人が話していた話の内容を知らない。
何処へ行くという当てもない私は、暢気に近所を散歩し始めた。家の近所は商売屋さんばかりだ。玄関戸が開き、店先に商品を並べてある家等もある。往来からちらとでもお店に顔を覗かせると、直ぐに、やぁ、おいで、とか、いらっしゃい、とか、今日は何の御用かな?、等の声が掛かる。こういうお店だと、ほんの子供の私でも、ご近所の顔馴染みだと愛想よく相手をしてくれた。私は1人遊びに出るようになってから、こんな近所の挨拶にもそろそろ慣れて来ていた。
「こんにちは、おばさん、今日は商売如何ですか?。」「儲かりますか?。」等、私も相手の言葉や顔色から幾つか声掛け出来るようになっていた。
「智ちゃん、お話が上手になったね。」
今日はそんな事を、顔を覗かせた瀬戸物屋で何時も元気な愛想のよいおばさんから言われて褒められた。私は嬉しく笑って彼女に答えていた。それでもその内、留守の父や、今出てきた我が家の事がやはり気に掛かったのだろう、私の顔色が曇ったようだ。
「智ちゃん、今日は何かあったのかい?。」と聞かれた。「え、おばさん、どうして分かったの?。」私は驚いた。おばさん曰く「分からないでかい、ご近所だよ。」であった。
朝からあんたの家がバタついてたし、バタついていたと思ったら、さっきはハイヤー迄来て、中から大奥さんが血相変えてあの四郎ちゃんを連れて出て来ただろう、大奥さんこっそりのつもりだったんだろうが、ああ大慌てでは。こっちは見て見ぬふりしてたけど、分かるよ。まただってね。内の人と言ってたんだよ。そうこの店の奥さんは言うと、
「ねぇ、お前さん。」
と、玄関の奥にいたご主人に向かって声を掛けた。ご主人の方はと言うと、いくら幼いと言っても、当の話の主の家族である私に遠慮したらしい、ああ、まぁなあと、こちらを見るでもなくぶっきら棒に自分の奥さんに返事をした。
私はこの御近所の家の、情報回りの素早さに目を丸くして驚いた。私より余程我が家の事情通だ。自分の家の人間に聞くより、ここのおばさんに聞いた方が家の状況がよく分かりそうだと感じた。そこで、私は目の前のおばさんに、今うちの家では何が起こっているのかと訊く事にした。私はにっこり笑った。
蝶ちょう(3)
漸く蝶が認識でき、空間を飛ぶ蝶も、あれあれとよく目に捉える事が出来るようになると、本当に蝶って素敵だなぁと新めて気分よく晴れ晴れとして素晴らしく思いました。私は蝶が大好きなのだと......
年末の大掃除はしたいのですが、体調不調で儘なりません。こう体調が悪いと、きちんとした判断力も無くなっていそうで、あれこれ決定出来ないする事が出来ない気分です。重要な物事は見送りです。
さて、祖母が帰って来て、父はと言うと、もう少し用があるという事で、彼女は1人祖父の待つ座敷へと入って行った。
「如何だって?。」
祖父の言う声が聞こえる。
「如何とも、しばらく様子を見てからという事で向こうへ置いてきました。」
祖母が答えている。何だか慣れた言い方だと私は思った。
さては商いの関係で、商売用の品でも何処かに納めに行ったのかと、それで父と祖母が共に出掛けたのかと私は1人合点していた。祖母が商売の手伝いをする事が有るのだなぁと思い、そんな事も有るのだと、頭に控えて置こうと考えていた。祖父は祖母に少し話が有ると切り出し、ぽそぽそと内緒話宜しく声を落とした。祖母はまぁ、あのねえさんがとか、へえぇとか、今度は意外そうな声音で話していたが、私が階段の部屋で聞き耳を立てて祖父母のいる座敷を見詰めていると、開いていた障子襖の入り口に、ふぃと祖母は姿を現した。
祖母は入口を見詰めていた私の顔と出会い、やはり驚いた顔をした。
「やっぱりいましたよ。」
彼女は奥にいる夫に自分の声が聞こえるように、やや顔を自分の斜め後方に向けると言った。この祖母の言葉に、私は聞き耳を立てていた事が恥ずかしくなった。思わず「戸が開いていたから、何を話しているのか気になった。」と、照れ笑いしながら彼女に言い訳した。
祖母は戸が開いていたって…、と、何か言い掛けたが、奥から祖父の、その子の事は後でいいから、あの子の将来に付いてこれからの事を話し合おう、あの子にとっていいようになるようにな、という声が掛かると、祖母は私から視線を落とした。やや躊躇していた彼女は、しんみりした感じで祖父の元へと戻って行った。
「もう育った子より、今から育つ子の方が大事じゃ無いかしら。」
そんな呟きを彼女は座敷の入り口に残して行った。
私はそんな彼女に、これ以上ここで続けて祖父母2人の話を聞いているのは礼儀知らずだと考えると、祖母と父が外出してから今迄暫く家で落ち着いて休んでいた事も有り、元気にまた活発な外遊びに出る事にしようと決意した。そうすれば後々私が家に居て彼等の話を聞いていたという嫌疑もかからないし、実際に私が聞く気が無くても、彼等の話が自然に耳に入ってしまったという事も無くなるのだから。
「外で遊んできます。」
私は家の玄関に向かった。