Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

マルのじれんま 34

2020-05-21 12:40:20 | 日記
 マルはミルから紫苑さんの事を頼まれた時、細君を失くした彼の寂寥感漂わせる悲壮な状態について、何とかならないだろうかと相談されていました。それ以外でも、彼は直接紫苑さんから彼等夫妻の過去の出来事や、奥様の亡くなった時の経緯なども、彼と付き合う内に折に触れて彼から聞いた話で大まかに知っていました。

 実をいうと、ミルは彼の故郷の星に祖父を1人で置いて来ていたのです。やはり妻を亡くし寂しい姿でいた祖父と、地球で独り身になった紫苑さんの孤独な姿を、何時しか彼は重ね合わせて同様に見る様になっていました。その為ミルは身につまされてしまい、酷く紫苑さんの身を案じるようになっていたのです。彼は紫苑さんに元気を出して日々を生きて欲しいと願っていました。

 マルはミルのこの気持ちを聞いてから、現在までにその彼の感情をほぼ理解して来ていました。マルにしても紫苑さんと付き合う内に、何度か見た彼の虚ろな姿に同情を禁じえず、マル自身気の合う彼に元気になってもらいたいと願うのでした。こうやって紫苑さんと話すのも彼の心のケアを考えての事でした。

 改まって問い掛けたマルの声掛けに、ふいと顔を曇らせて無言で考え込む紫苑さんでした。これは…、折りが悪かったようだなとマルは思いました。『専門家に任せてみようかな。』。マルは考えました。

 自分同様、船にいる心療専門家のシルに任せてみようかな。そうすれば彼女もこの地表に降り立ち、地球人やこの星の世界、文化とも触れ合う事が出来る。彼女にとってもそれは喜ばしい事に違いない。マルはこう考えていました。

マルのじれんま 33

2020-05-20 10:12:12 | 日記
 「私は僧侶の身ですから…、」

マルは内心緊張しながら表面澄まして答えました。

「女人の事については私の口からは何とも。」

こう言ってから、彼はここで漸く上手く答えられたと、ほっと胸を撫で下ろすのでした。

 彼は船で僧侶について、またその宗教については以前からかなり深く学習して来ていましたから、この点について前もってリサーチして来ていてよかったと、満足気に胸の内で呟きました。

 彼は考古学的な事や、色々な星々のそれぞれに独特な文化も大好きでしたから、今の船の同僚のミルとこの点で嗜好が合い親しくなったのでした。そのミルから、ミルがこの地球上で親しくなったという、地球人男性の紫苑さんの事を頼まれてしまったのでは、彼も体よくは断れなかったのでした。

 また、彼自身も地球人という人間にとても興味があったのでした。この星の文化的で教養の有る人物の1人である紫苑さんは、マルにとってもかなり興味深く、またあらゆる面で環境の違う所で育った2人でしたが、彼はマルにとって何だか気心の知れた気の置けない人物に思えるのでした。その為マルは、現在まで綿々と彼との付き合いを深めて来たのでした。『この点ミルに感謝しないといけないなぁ。』、マルは思いました。

 さて、場面変わって、はははははと声を上げて笑う紫苑さんに、いやいやと照れる様に苦笑いする円萬さんがいました。2人は先の一件で、彼等の一度気まずくなった空気がまた元の通り和んだのを感じていました。2人は相変わらず堀端に腰かけていましたが、程無くして円萬が、遠慮がちに連れの元教授に口を開きました。

 「紫苑さんの方は如何ですか?。奥様とはおしどり夫婦でおられたようですが、2人の馴れ初めなど、この機会にお聞きしたいものですな。」

マルのじれんま 32

2020-05-19 16:45:06 | 日記
 大体…、紫苑さんは言いました。

「あなたと魚との遭遇の件は大体分かりました。」

そして彼は、にゃっとマルに悪戯っぽい笑顔を向けると、ところでと続けます。

「円萬さん、人間の女生との遭遇の方は如何なんですか、そちらの方はされなかったのですか?。」

彼は如何にも意味有り気な目付きで横に腰かけている連れの僧の顔を見詰めました。彼の目に映る円萬さんはお年の割りには純真そうな顔付に見えました。彼の真新しい重ね着の下の白い衣装の様に無垢な人物に見えます。

 円萬ことドクター・マルは痛い所を衝かれました。『何を言い出すのだこの人は。』彼は思わず焦りました。口を一文字に閉じると目を瞬きました。そんな連れの僧の慌てぶりに、おやと紫苑さんは何だか優越感を感じました。彼は今この僧から聞いた俗世を離れた様な彼の崇高な釣りの話にやや気圧された感じでいたのです。その為、どっぷりと俗世の荒波に浸かっている自分の方が、人の煩悩の事でなら大凡の点で彼に勝利していると、この時の彼に不思議な優越感を感じさせ、奇妙な勝利感を紫苑さんにもたらしたのです。彼より私の方が人間的な経験が豊富だ。紫苑さんは感じました。

 確かに、現実的にも異星人であるマルより、人間である紫苑さんの方が人間的経験は遥かに抱負でした。それは確かな事実でした。この時の紫苑さんは目の前にいる人物は自分の内に含まれる物だ、全く自分の要素として自らの人生経験の内に収まってしまう人物なのだと感じました。

 純粋な物より不純、無垢より汚れた物か…。確かに、『悪化は良貨を駆逐する』だな。そんな言葉が彼の胸の内に浮かびます。こんな感情がそういう社会を生み出すのだろうか。紫苑さんは思いました。

マルのじれんま 31

2020-05-19 11:10:50 | 日記
 異生物との遭遇か。紫苑さんは心の内で呟きました。紫苑さんの脳裏には異生物の「異生」の漢字が直ぐに「異性」の漢字へとへと変換されました。そして出会った頃の初々しい妻の笑顔が浮かんできました。

 『異性との遭遇か。』紫苑さんは思いました。それは異生物との遭遇といえるかしら?。はて?、と紫苑さんは考えました。確かに、それ迄は出会う事の無かった2人です。住む世界も歳も違う2人、育った環境も違えば家族構成も違う2人です。少なくとも彼はそうでした。それがある日突然出会うのです。

『それまで違う世界に住んでいた2人が出会うのだ。』

彼は胸の内でこの言葉を再確認しました。円萬ことマルが今言った言葉です。2人はお互いに知らないし分からない事も多い…。それは確かだな。

『それなのに不思議なものだ。』

彼は思いました。

 何か相手との間に通じるものが有るのを感じるのだ。2人が共有しているような何かを感じるのだ。例えばそれは2人が分かり合えるような気がするという様な事なのかもしれない。自身がそうとはっきり意識しないのに、そんな何かを感じて、…つい相手を見詰めてしまうのだ。2人の間に何か目に見えない心理的な流れが存在するのを感じ取る瞬間。それは思いがけず不意にやって来たのだ。

 『それをお互いに感じたのだから、』

不思議な物だな、恋というのは…。紫苑さんは嘆息しました。自分にとっての伴侶となる異性との遭遇について考えていた紫苑さんは、ふと言葉を口にしました。

「未知との遭遇か。」

昔流行った映画の題名を口にすると、紫苑さんは遠い目をして微笑みました。昔そんな映画が有りましたな。差し詰め円萬さんとこの濠の魚、いや水中を泳ぐ魚とは色々な未知との遭遇をされたのでしょうな。彼は結構な事だと自重気味に言いました。