東京新聞に隔週で連載しているコラム「言いたい放談」。
今回は、この春出発した新社会人、新人をめぐってのお話です。
子供の旅立ち
もうすぐ娘が家を出る。現在新人研修中だが、赴任地も決まった。
長年一緒に暮らしてきた家族の旅立ち。自他共に認める親バカな私は今、少し感傷的だ。
三十八年前の春、私も家を出た。
当時健在だった父がこう言った。「ウチを継ぐ必要はない。自分の道を探せ」と。
若い頃、父は憧れて入った会社で働いていたが、途中で家業を継いだ。それが幼少時代に養子として迎えてくれた祖父との約束だったのだ。
だからこそ自分の子供が自由に羽ばたくことを望んだのだろう。長男である私も心おきなくテレビ制作の仕事に飛び込むことができた。
父は子供たちが一人前になるのを見届けた後、宣言通りに家業を閉じている。
娘も仕事を自分で決めた。家業を持たぬ私が「自分の道を探せ」と言うまでもなかった。
ただ、娘が選んだのはメディアを通じて人に何かを伝える仕事だ。意義もあるが責任もまた大きい。
それはこの一ヶ月余りの震災報道を見てもわかる。何を、どのような視点で、誰に伝えようとしているのか。それが現在も問われ続けているのだ。
しかし今は、この春わが子を社会に送り出す無数の親御さんと同様、その背中を見守るしかない。
いつか娘を含めた新人たちのやりがいと社会への貢献が、仕事の上で重なってくれたらどんなにうれしいか。
親バカはどこまでも夢想家である。
(東京新聞 2011.04.20)