『東京新聞』に連載しているコラム「言いたい放談」。
今回は、最近見た映画『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』について書きました。
一歩を踏み出す静かな勇気
『アーティスト』『スーパー・チューズデー~正義を売った日~』『ドライヴ』『バトルシップ』など、この春の新作映画を何本か見た中で、個人的なイチオシは『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』だ。
舞台は一九六〇年代前半の米国ミシシッピ州。大学を卒業して帰郷したヒロインが、「ヘルプ」と呼ばれる黒人メイドたちの証言を集めた本を書こうとしたことから、周囲に大きな波紋が巻き起こる。白人の子供はヘルプに育てられ、結婚してからもヘルプを雇って暮らすのが当たり前という土地柄なのだ。
まず、それほど遠い過去でもない時代、厳然と存在していた人種差別の実態にあらためて驚かされる。また当時、「結婚と 出産」だけが女性の生き方とされていたことも再認識できた。
しかし、この映画は人種差別や性差別を声高に訴えているわけではない。自分たちだけでなく、子どもたちの未来も変えようと第一歩を踏み出すヘルプたちの姿を、ユーモアさえ交えながら描いている。そこにあるのは静かな勇気だ。
確かに「社会を変える」ことは容易ではない。だが、ひとりひとりが少しだけ「自分を変える」ことは出来るし、それが社会を動かすことにつながっていくのではないか。そんなことを思わせてくれるこの作品を、多くの人に観ていただきたい。
(東京新聞 2012.04.18)