2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返っています。
今回は7月編。
なでしこジャパンの女子ワールドカップ優勝があったりしましたが、テレビに関して言えば、やはり7月24日の「地デジ完全移行(東北3県を除く)」でしょう。
10年前に国会で決められた通り、25日へと日付けが変わった瞬間、アナログテレビの画面は“砂嵐”になりました。
(以下の文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです)
2011年 テレビは何を映してきたか(7月編)
「お願い!ランキングGOLD」 テレビ朝日
深夜番組をゴールデンタイムに持ってくる手法はよく使われる。うまくいく場合もあるが、深夜でやっていた頃の“味”が失われて失敗するケースも多い。
そこで、「深夜はそのままにしてゴールデン向けを増発すればいい」と考えた。土曜夜6時58分のテレビ朝日「お願い!ランキングGOLD」はそんな1本だ。
この番組が制作側にとってオイシイのは経済効率だろう。手間のかかるランキング部分は深夜と共有。後はゴールデンらしい見栄えのスタジオを加えればいい。
しかし、それはあくまでも制作側の事情だ。実際の番組内容は「回転寿司No.1決定戦」だの、「人気ステーキハウスNo.1決定戦」だの笑えるほど安っぽい。
先週の「美味しいハンバーガー店No.1決定戦」ではロッテリアとファーストキッチンが登場。長嶋一茂、シェフ、料理研究家など4人の審査員が試食し点数をつけていく。ロッテ「絶品チーズバーガー」は40点満点の37点。ファースト「特撰ベーコンエッグバーガー」は31点といった具合だ。結果、合計得点で上回るロッテリアの勝利だった。
次から次と出てくる美味しそうな映像。商品の詳細な説明。食のプロたちによる評価。とくれば、これはもう番組というよりインフォマーシャル、いやタイアップ広告である。低予算でゴールデンと深夜をまかなう安直企画の実体、かくの如し。
(2011.07.04)
「ドン・キホーテ」 日本テレビ
先週から始まったドラマ「ドン・キホーテ」(日本テレビ)。突然、暴力団組長(高橋克実)と児童相談所職員(松田翔太)の身体が入れ替ったことで騒動が起きる。
第一印象は「また入れ替わり物かあ」という企画の貧困ぶりだ。古くは大林宣彦監督の映画「転校生」。娘の身体に母親が入ってしまう東野圭吾原作「秘密」(テレビ朝日)。また父と娘が入れ替わる「パパとムスメの7日間」(TBS)もあった。
「入れ替わりドラマ」の面白さは、年齢や立場の違う2人が誰にも悟られずに(というか理解してもらえない)お互いを演じ続けようとする“無理”にある。ただ、ヤクザと公務員の組み合わせに意外性はあるものの、外見と中身のギャップもすぐに見慣れてしまうのが難点だ。
また初回での最大の不満は肝心の入れ替わり場面があまりにあっさりしていたこと。同じアパートの異なる階の廊下に2人が立っていて、空を怪しい雲が覆っただけでチェンジしてしまった。
2人がどうして入れ替わったのか、どうしたら元に戻れるのかは、この手のドラマの重要なポイントだ。手抜きはいけない。
物語は今後、ヤクザになった松田より児童福祉司になった高橋の動きが軸になる。子供たちが直面する笑えない現実を、いかに笑えるドラマにしていくか。脚本家の力量が問われるところだ。
(2011.07.11)
「IS~男でも女でもない性」 テレビ東京
テレビ東京が続けている社会派ドラマの新シリーズ「IS~男でも女でもない性」(月曜夜10時)が始まった。初回はIS(インターセクシャル)の解説と、主人公である星野春(福田沙紀)一家の“これまで”で構成されていた。
ISは数千人に一人の割合で存在する。生まれた時、男女の判断が肉体的に困難だ。親が早い段階で性別を決定し処置も行われるが、本人が自覚する性別と合致しないケースもあるという。
これは難しいテーマだ。下手に扱えば、「寝た子起こし」とか「誤解や差別を助長する」といった批判の矢が飛んでくる。
その意味で制作陣はとても慎重に、また丁寧に物語を構築している。何より両親(高橋ジョージ・南果歩)が、戸惑ったり悩んだり(母子心中の危機さえあった)しながらも、ISである我が子と真摯に、そして明るく向き合ってきたことがいい。
サブタイトルは「男でも女でもない性」となっている。だが、このドラマの基本にあるのはISが「男でもあり女でもある性」であり、一つの個性であるという認識だ。変な被害者意識も強調することなく、エンターテインメントの形でこの重いテーマを表現している。
主演の福田は、内面の性を隠しながら女子高校生として過ごすという複雑な役柄を好演。“ワケあり風”同級生役の剛力彩芽にも期待したい。
(2011.07.25)