北海道新聞で、月に一度、連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、震災から1年となった3月11日を軸に放送された「震災特番」について書いています。
震災1年の特別番組
問題の本質 斬り込めず
問題の本質 斬り込めず
多くの震災関連番組が放送された3月。特に11日は朝から晩までの特番ラッシュだった。しかし、その内容に首をかしげたものも多い。
不要な演出手法
たとえば「朝ズバッ!」(TBS-HBC)で、おなじみの巨大パネルを被災地に持ち込んだのは、みのもんた。パネルには「父は○○○○を叫び続けた」と書かれており、○の部分がシールで隠されていた。まるでバラエティーのような雰囲気だ。しかもこれをベリベリと剥がして出てきたのが「息子の名」の4文字。こんな演出が必要とは思えない。
木村太郎が復旧した三陸鉄道の試運転車に喜々として乗り込む(フジテレビ-UHB)のも結構だし、長渕剛がライブを行う(テレビ朝日-HTB)のも悪くない。しかし、1年が経過しても、なぜこれほど被災地の復旧・復興は進まないのか、という問題に斬り込んだ特番が見られなかったのは残念だ。
そんな中、深い印象を残したのがNHKの通常番組「小さな旅」。国井雅古アナウンサーが福島県相馬市を訪ねた。普段と変わらぬ作りだが、出会うのは津波で妻を亡くした漁師であり、リヤカーの移動販売で仮設住宅を回る被災女性だ。
国井アナは安易な同情や大仰な励ましの言葉を口にしない。いつもと同じ穏やかさで相手の話に耳を傾ける。今も毎朝、海に出て、がれきを引き上げているという漁師は「出来ることから、少しずつだな」と笑ってみせた。どこかお祭り騒ぎのような特番とは異なり、被災地の現在とそこに生きる人たちの思いを、地に足がついた形で伝える1本だった。
地元紙奮闘描く
3月はまた、震災をテーマにしたドラマも放送された。「3・11 その日、石巻で何が起きたのか~6枚の壁新聞」(日本テレビ-STV)、「明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日」(テレビ東京-TVH)などだ。前者は宮城の石巻日日新聞、後者は河北新報と、被災地にある地元紙の奮闘を再現していた。
「明日を-」で評価したいのは、記者たちが悲惨な現実を前に「こんなことをしていていいのか」と自問しながら取材する姿を描いていた点だ。新聞を読者に届ける販売所の人たちにスポットを当てたことにも注目したい。実際に避難所で河北新報が配られた時、被災者たちは「手でさわれる日常」に励まされたという。新聞は貴重な救援物資でもあったのだ。
(北海道新聞 2012.04.02)
◇次回は5月7日(月)掲載予定です。