東京新聞に連載しているコラム「言いたい放談」。
今回は、「テレビは何を伝えてきたか~草創期からデジタル時代へ」(ちくま文庫)をめぐって書かせてもらいました。
テレビ界の先達たち
テレビ界の先達による連続鼎談が一冊になった。「テレビは何を伝えてきたか~草創期からデジタル時代へ」(ちくま文庫)である。参加者は「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」の大山勝美さん、「てなもんや三度笠」「花王名人劇場」の澤田隆治さん、そして司会が元テレビ東京常務の植村鞆音(ともね)さんという豪華版だ。
大山さんも澤田さんも八十歳前後だが、堂々の現役制作者。この本も単に昔を懐かしむ回想録ではない。それぞれが体験してきた“生きた歴史”を踏まえた上で、現在のテレビに対する分析、批判、さらに提言までを語っている。
たとえば大山さんは、「視聴者がテレビを見なくなる要因」を三つ挙げる。まず制作者の独りよがり、次に視聴者をバカにした番組、三番目が制作費を手抜きしている番組だ。耳の痛い制作者も多いのではないか。
また澤田さんは、テレビ界を支えている制作会社の課題を指摘する。放送局との長年の交渉を経て、著作権が作り手のものとなってきた。ところが最近は人材派遣が増え、「制作者の権利」は後退していると言うのだ。
二人の大ベテランに共通するのは、基幹メディアとしてのテレビへの誇りと、もの作りに対する真摯な姿勢だ。来年、放送開始六十周年を迎える日本のテレビ。先達に学ぶべきことはまだまだある。
(東京新聞 2012.07.11)