碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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予想通り“不幸の地滑り現象”が続く「ビューティフルレイン」

2012年07月09日 | テレビ・ラジオ・メディア

先週の第1回を見て、あまりの「あざとさ」に半ばあきれて(笑)、このドラマはもう見ないだろうなあ、と思っていた。

ところが取材を受けるため、第2回も拝見することに。

で、予想通りの展開がそこにあった。

豊川悦司が若年性アルツハイマー病であることを、娘の芦田愛菜や周囲の人たちに隠していることで、つまり「なぜかいろいろ忘れちゃう」ことで発生するトラブルが並んでいたのだ。

たとえば、取引先に見積もり書を届けることを忘れた。娘の靴のサイズを忘れた。買い物に出て、家までの帰り道を忘れた等々。

まあ、病気を告白するまでは、そればっかりが続くはずだよね。

それに、なんだか病気の進行が早い。

先週、このドラマの中の医師が言っていた、「自分が誰であるかもわからなくなる」状態へと、どんどん近づく感じ。

もちろんストーリーの都合なんだろうけど、見ている人は「若年性のアルツハイマーって、こんな速度で行ちゃうんだなあ」と思うはずだ。


結局、この2回目を見ても、先週の印象は変わらず、むしろ強化されたような気がする。

「泣かせるドラマ、そして数字を取れるドラマにするために、リアルな病気を使って、登場人物たちの運命を、作り手側が安易に弄んでいる」ということだ。

自分たちの都合を優先し、若年性アルツハイマー病の患者さんにも、そのご家族にも、十分な配慮がなされているとは言えない。

できれば、この“他人の不幸ドラマ”を楽しむ人が、あまりたくさんは、いないほうがいいなあ、などと思っています。



<このブログ内で書いた関連記事>

「難病」と「子役」を駆使した不幸物語「ビューティフルレイン」
2012年07月02日
http://blog.goo.ne.jp/kapalua227/e/43b381a692660822c08712e6bd6ce6a9

映画「裏切りのサーカス」は原作を裏切らない

2012年07月09日 | 映画・ビデオ・映像

「裏切りのサーカス」(監督:トーマス・アルフレッドソン)を観た。

なぜ?

ゲイリー・オールドマンのファンだから(笑)。

今回、彼が演じるのは引退した老スパイ、ジョージ・スマイリーだ。

舞台は1980年代、まだ東西冷戦下の欧州。

ロシアはまだソビエト社会主義共和国連邦であり、KGB(ソ連の情報機関・秘密警察)も健在だった頃だ。

隠語で<サーカス>と呼ばれる英国情報部。

その内部に潜む二重スパイを探し出すことが、スマイリーのミッションである。

もちろん、「007」じゃないから、派手なアクションなどはない。

地道な調査や、水面下の頭脳戦がメインだ。

でも、「本当のスパイって、きっとこんななんだろうな」と思わせてくれる。

そして、オールドマンのスマイリーも、原作を裏切らない、いい味に仕上がっていた。

それにしても、「裏切りのサーカス」という邦題は困った(笑)。

原題は「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」。

ジョン・ル・カレのスパイ小説であり、スマイリー5部作の3作目、もしくは3部作の1作目に当たる作品だ。

「死者にかかってきた電話」1961
「高貴なる殺人」1962
「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」1974
「スクールボーイ閣下」1977
「スマイリーと仲間たち」1979


この映画は、よーく見ていても、何か見落としをしているような気分になる。

まあ、簡単に正体がわかるような二重スパイじゃ、ダメなわけだし(笑)。

物語がサクサと進むような原作でもないし、映画もまた同様。

雲り空のような“スマイリー・ワールド”の雰囲気は十分出ている。

ル・カレのファンも、それなりに納得の1本だと思います。