2016年06月21日
NEWSWEEK
[イギリスの漁師は90%がEU離脱支持──農家は半々]
イギリスがEUを離脱するか否かで影響を受ける産業のなかでも、漁業は重要な産業の1つだ。EU諸国の海のどこで誰が漁をしていいかを決め、資源保護の観点から国ごとに漁獲量を割り当てる「共通漁業政策(CFP)」は、信じられないほど評判が悪いことで有名だ。その結果、我々が行った調査でも、イギリスの漁業者はほぼ全員一致でEUを離脱したがっている。
漁業者はCFPに対して極めて批判的だ。2016年5月には、EUを脱退してイギリス領海の漁業に関する支配を取り戻すための団体「離脱する漁業」を創設した。
我々が5月と6月、イギリス中の漁業組合の組合員に対して行った調査によると、イギリスの有権者全体では離脱派と残留派がほぼ半分に分かれるのに対し、漁業者の場合は92%がEU離脱に投票すると回答した。これほど一方的な結果は、イギリスの他の経済・社会団体には見られない。
この傾向はEU全体についての意見にも見られる。イギリス全体ではEUに対して「ネガティブ」という回答が約30%だが、漁業者では90%を超えている。
我々が話をした漁業者の圧倒的多数は、EUを離脱したほうがイギリスの漁業は活気づき、漁獲量も増えると75%以上の漁師が考えている。
“何が起こるかわからない”
もっとも、EUを離脱してCFPの対象外になったからといってイギリスの漁業にすぐメリットがあるかどうかはわからない。EUから抜ければ、今まで通り欧州統一市場にアクセスが許されるかどうかわからないからだ。
EU諸国への魚の輸出には大きな影響が出るだろう。フランス、スペイン、アイルランドは2014~15年にイギリスの魚を14万トン買っており、イギリスの魚の輸出先トップ20カ国の36%を占めている。
だが、我々の調査によると、漁業者はEU離脱が魚の輸出に与える影響を深刻に考えていない。漁業者の4分の3は貿易に影響はないと考えている。むしろ良い影響があると考えているのだ。
この調査からは漁業者の自信の根拠はわからないが、漁業者との会話でよく聞いたのは、魚介類はイギリスよりEU、とくにフランスとスペインで人気が高いため、EUの漁業者だけでは需要を満たせない。従ってイギリスから買い続けるしかない、というのだ。
とにかく漁業者のEUに対する反感は強い。漁業と同様、共同農業政策の枠をはめられながらも、EUに対する賛否が分かれる農業者とは対照的だ。農業者の場合、市場統合による損失はEUが補助金で補償してくれたのに対し、漁業者は何もメリットを得ていないせいもあるだろう。
欧州統合の恩恵は広く薄い半面、コストは一点に集中しがちだ。漁業者がそのしわ寄せを一身に受けてきたと思えば、こうした反応も驚くにはあたらない。