内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

一通の礼状

2015-12-08 21:14:11 | 雑感

 火曜日午前十一時から正午までは、私の「オフィスアワー」(コレ、日本語デハ、アーリマセンネ。日本語デ、ナント言イマスカ? 因みに、フランス語では、「ペルマナンス」(permanence)と言います)である。この時間帯は、原則として、大学の教員室(お世辞にも研究室などと呼べる立派なものではないから、こう呼んでいる)に待機していなくてはならない。学生たちが事前に教員とアポイントメント(オー、コレモ日本語ジャアーリマセン。「アポ」トモ言イマスネ。「アホ」トトテモ似テイマース)を取らずに面会できる時間帯である。各教員、週に二時間のペルマナンスが義務である(因みに、私のもう一時間のオフィスアワーは、木曜日の午後二時から三時までで、この一時間は、狭い教員室に専任三教員「揃い踏み」で、けっこう賑やかである)。
 一人ペルマナンスのときは、だいたいが暇であり、その間に直後の講義の準備をしているのが普通であるが、今日は、ペルマナンス終了十五分前になって教員室をノックする音が聞こえる。入ってきたのは修士二年の女子学生。とてもよくできる、日本的な礼節を身につけた学生である。
 「先生、日本語で手紙を書いたので、それを見ていただきたいのですが」
と言って、彼女が差し出したのは、二百字詰めの原稿用紙に丁寧な字で書かれた礼状。日本滞在中に世話になった年配の女性たち宛の年末の挨拶と、日本滞在中にお世話になったことへの彼女たちへの感謝の印としてフランスのお菓子を送ることを知らせるのがその内容。一点の曖昧さもない文章であり、そのまま送ってもまったく問題なかったのだが、本人としては、相手が年配の日本人女性たちということもあり、表現に失礼のないように確認をしたいのだという。
 こういうとき、実は、少し迷う。そのまま送ったほうが、日本語としてはちょっと不自然なところも含めて、書いた本人の気持ちがよく伝わるから、直さないほうがいいと思う気持ちと、せっかくこうして持ってきたのだから、本人の言いたいことを聞いた上で、それにそって直してあげたいという気持ちとに、ちょっと大げさに言えば、引き裂かれるからである。
 日本留学中に会ったときは、そのお世話になった人たちに、フランスで何ヶ月も前に予め買って持っていたチョコレートを渡しただけだったので、今度は出来立てのお菓子を送りたいのだと彼女は言う。本人の話(全部日本語ですよ)を聴いていると、やっぱり手を入れたほうがいいかなと思うところがあり、本人にどうしてこう直すか説明し、了解を得ながら、直していった。
 正味十分ほどの作業であったが、学生の話を聴きながら直していて、私はとてもいい気分になった。その学生が日本での得た厚誼を大切にしようという気持ちがよく伝わってきたからである。
 大学で知識として学んだことより、こういう人と人との交わりこそが、本当の国際交流の礎なのである。これまでの十数年の経験から、私は確信をもってそう言うことができる。