現在の勤務校に一昨年九月赴任して、これで二三年は役職から解放されて、大学行政に関わる仕事から離れることができるとホッとしていた。
ところが、詳細は省くが、先々週に同僚たちとの会合を兼ねた会食のとき、来年度の新設ポストの公募が優先課題として話し合われたのだが、あろうことか、私がそのポストの審査委員会の委員長に「任命」されてしまったのである。
任命というのは、実は、正確な言い方ではない。実のところ、いろいろ話し合った挙げ句、私が引き受けると一番審査しやすい委員会になるだろうということになり、「まあ、そういうことなら、引き受けてもいいけど」と、ほろ酔い気分で一言口を滑らせたのが運の尽きであった。「じゃあ、そういうことで」と、その会食の席で即「満場一致」になってしまったのである。まさに「即席」である。
フランスの大学のポストは、国家公務員のポストということであり、すべて公募であるばかりでなく、審査委員の半数は外部審査員でなくてはならない。つまり、他大学に勤務している先生方にそれを引き受けていただくのである。審査委員会は、議長を含め、十二名からなるから、その半数である六名は外部審査員でなくてならない。しかも、男女同数あるいはそれに準ずるバランス、より正確には、「一方の性が委員会の少なくとも40%以上を占めなくてはならない」と規定されている。つまり、十二名のうち、男女いずれも少なくとも五名はいなくてはならないということである。さらに、外部・内部とも、教授と准教授が同数でなくてはならないという条件がそれらに加わる。
委員長が最も頭を悩ます最初の仕事は、これらの条件をすべて満たした委員会の構成である。他大学の先生方にコンタクトを取り、こちらの希望する審査日二日(書類審査の日と面接の日)を知らせ、引き受けていただけるかどうか打診する。しかし、すべての審査員にとって都合のいい日を二日確保するのは、コンタクトを取ったパリの教授の返事から引用すれば、「ほとんど円積問題より困難な問題」なのである。
大半の先生方は、自分の勤務校や他大学でも同じように審査員を引き受けることもあり(実際、私もパリの大学の外部審査委員を引き受けている)、学期中であるから講義も受け持っており、学会等で出張ということもある。
問題をさらに困難にする条件として(まだあるの? ええ、あるんです)、フランスは、復活祭の休暇など移動ヴァカンスの時期が三つのゾーンで一週間ずつずれており、すべての大学が同じ期間に休暇になるわけではない、ということがある。来年の場合、私たちの大学にとってちょうど都合の良い時期は、パリはヴァカンス中なのである。つまり、その間、パリの先生方にはお願いできないということである。
案の定、最初のコンタクトの返事として、二日ともOKをくれた先生は、たった一人であった。容易な作業ではないことはわかってはいたが、まったくやれやれである。同僚とも連絡を取り合いながら、審査日に少し選択肢を増やして、審査員候補者も追加して、DOODLEを使って再度お願いしなくてはならない。
しかも、この構成作業を冬休み中に終えなくてはならない。ところが、ヴァカンス中にフランス人に仕事の件でコンタクトを取って、その休み中に返事をもらうことを期待するのは、年末ジャンボ宝くじを一枚だけ買って三等以上が当たることを期待するよりも空しいことなのである。
自分が頑張ったからといってどうにもならない理由で作業がまったく進行しないのは、大変気の重い話ではあるし、休暇中だというのに仕事のことであまり寛げないなんて、という愚痴っぽい方向に気持ちが傾きがちではあるが、他方では、そのような感情の自然な傾きに抗し、自分の意志に拠らないことで思い悩んでも、少しも問題の解決にはならない、知るか、なるようにしかならねえんだよ、年末年始、飲むときは飲むし、遊ぶときは遊ぶぜ、ということで、今日は、日中にお願いメールを審査員候補者の先生方全員に送った後は、伝統ある或る文学雑誌の次期編集長のお誘いで、飲みに行ってまいります。