いついつまでにこれをしなきゃというプレッシャーから今いっとき解放されているからなのでしょうね。今朝、目覚めると、体がとても軽く感じられました。
「明日は一日読書三昧だ」と昨晩から楽しみにしていました。ところが、レヴィ=ストロースのモンテーニュについての1937年の講演を読んでいるうちに、まず体を動かしてからでないと落ち着かないという気分になり(レヴィ=ストロースにはなんの咎もないのですが)、十時前、読書を中断し、ジョギングに出かけました。
走りはじめたときは十キロくらいで切り上げるつもりでいました。ところが、それではもったいないと思えるほどに快適に走ることができ、六キロほど走ったところで、より長いコースへと変更しました。いつも走っている森の中には細道が縦横に張り巡らされているので、そのときどきの体調・気分と相談してコース変更はいつでも可能なのです。
天気は曇り。気温は十五度前後。風もなく、ジョギングには好適なコンディションでした。森の中ではできるだけ舗装路を避け、土の上を走りました。今週前半に降った雨のせいでまだ水たまりやぬかるみがあるのですが、少し湿った土のクッションを感じながら走る心地よさは格別だからです。
森を抜けた時点で十三キロ余り走っていたのですが、まだまだいけそうなので、自宅方面を目指しつつ、走行距離を伸ばしていきました。十八キロほど走ったところで、今日の目標はハーフマラソンと決めました。目標が具体的に設定されると自ずとスピードアップします。
ところがです。ハーフマラソンの「ゴール」まであと一キロほどというところで、後ろからひたひたと足音が迫ってきました。「えっ」と思う間に私の脇をさっと抜けて前に出たのは、栗色の長髪を靡かせながら大きなストライドで飛ぶように走るうら若き女性でした。鮮やかなオレンジ色のTシャツに濃紺のショートパンツ。その下の鍛え抜かれた褐色の美脚はあっという間に遠ざかってゆきました。
その見知らぬ美しきジョガーを見送った後、自宅に無事帰り着いた孤独な夢見る老ランナーは、ハーフマラソン完走をお気に入りのワインとともに寿ぎました。
そんな皐月のある土曜の午後でありました。