内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

ツヴァイクに微笑み励ますモンテーニュ

2023-05-09 23:59:59 | 読游摘録

 昨日引用した箇所の直後に、微笑むモンテーニュからツヴァイクが聴き取った励ましの声がこう書き留められている。

どうしてきみはそんなことをそこまで真面目に受け取るのだろうか。どうしてきみは、きみが生きている時代の不条理と野蛮さに苦しめられ、打ちのめされるままになっているのだろうか。そんなものはきみの肌の上をかすめるだけで、きみの内側にある自我に届きはしないのだ。きみ自身が動揺しないかぎり、外側にあるものはきみからなに一つ奪うことも、きみを動揺させることもできないのだ。きみの時代の出来事は、きみがそれに加わることを拒否するかぎり、きみに手出しなんかできるものではないのだ。きみ自身が精神の明晰さを保ちつづけるかぎり、時代の狂気は本物の危険ではないのだ。きみのいちばんの災難だって、明らかな侮辱だって、運命の痛打だって、きみがその前で弱気にさえならなければ、痛くなんか感じないものだ。なぜかっていうのか。きみのほかにいったいだれが、物事に価値と重みを、喜びと苦しみを与えるだろうか。きみ自身でなければ、なにものもきみの自我を引き下げることも高めることもできはしない。もっとも強い外部からの圧力にしたところで、こころのうちが自由で信念のある人であれば、そんなものはやすやすと跳ね返せるのだ。

(保苅瑞穂『モンテーニュの書斎』、86‐87頁。)