万聖節の休暇直前の試験週間に行われた中間試験の答案を今日学生たちに返した。授業のはじめに、「答案返すから、取りに来てください」と言うと、みな一斉に教壇に駆け寄ってきて行列ができた。一通り答案受領が済んだ後、一時間かけて詳細な講評と解説を行った。
受験者は53名。うち28名が20点満点で合格最低点の10点以上。最高点は19,4(100点満点に換算すると97点、最低点は0,4(同2点)、平均点9,6点(同48点)。現今の日本の大学だと、これはありえないほど厳しい採点ということになるのかも知れないが、フランスの大学ではごく平均的な結果である。
完全な白紙答案はなかったが、ほとんど白紙に近い答案は数枚あった。それでも何か書いてあれば零点にはしなかった。問題となんの関係もないことが書いてある答案もあったが、その場合、字が綺麗で、書いてあることにそれなりの筋が通っていれば、「インク代」あるいは「手書き代」として小数点以下の点を贈呈した(大盤振る舞いである)。
白紙に近い答案は採点が楽である。採点に1分とかからない。教師思いであるとさえ言ってもよい。ところが、くそ汚い字で何やらいっぱい書いてあると、一応読まざるを得ない。読んだ結果、デタラメであることが判明すると、教師も人間である、ふつふつと怒りが湧き、結果、採点は厳しくなる(といっても、2,4が2,2になるくらいの話である)。ただ、こちらの怒りを伝えるために、極太の赤ペンで答案用紙を切り裂くように大きなバツをつけたくもなる(実際にはしない)。
白紙に近い答案もデタラメな答案も、氏名・学籍番号が記してある。これを忘れた答案はなかった。というか、答案提出時にこちらがチェックするので、名無しの権兵衛はまずありえない。それに、答案とは別に、受験したことを証明する署名用紙がある。試験中にこちらが巡回してこの用紙に署名させる。これは不正がないか監視する意味もある。
提出することがほぼ無意味なこれらの答案を見て溜息まじりに思った。これは資源の無駄遣いである、と。どうせ真面目に解答する気がないのならば、氏名も学生番号も記さず、再利用が可能なまっさらの答案用紙を返すほうがエコロジカルではないか。
そこで思案した。そのような箸にも棒にもかからない学生たちには、答案用紙を汚すことなくそのまま返却させる手立てはないものか、と。
たとえば、彼らには試験時に「白旗」を持参させる。問題を見て「こりゃダメだ」と思ったら、答案用紙に氏名・学籍番号を記入する前にその白旗を挙げさせる。すると、私は署名用紙をもってその学生のところに行き署名させる。署名すれば、直ちに退出してよいとする。こうすれば、答案用紙はまっさらのままであるから、別の試験に使える。
ただ、これだけの措置では、デタラメを書きなぐってわずかでも点数を稼ごうとする反エコロジカルな輩は応じないであろう。そこで、まっさらな答案用紙を返却した場合には、エコポイントとして1点(20点満点中の1点である)贈呈することにしてはどうであろう。
賭けてもいいが、少なくとも数人はエコポイント欲しさに白旗を挙げるはずである。何の努力もせずに、「エコポイント、ゲット。 ラッキー!」と喜ぶはずである。かくして、数枚の答案用紙が浪費されることもなく、教師が採点のために消費するエネルギーもそれだけ減少する。
これは地球環境にやさしいきわめて現代的な妙案ではないだろうか。