昨日の午前中、
少年からまだ青年になったばかりという具合の、
盲人を見かけました。
彼は傘に白杖をつけていました。
点字ブロックのない横断歩道を、
彼は渡り、そして戻ってきました。
僕のいる方へ曲がってくるので、
寄りました。
きっと、道を探していると思ったから。
案の定、ある場所へ彼はゆくのですけれど、
迷っていました。
「ちょっとここで待ってて」
と彼に言い、
Oさんに場所を訊き、
付き添っていってよいかの承諾を得ました。
彼に、
「一緒に行きます」
と言うと、
「いやいや、大丈夫です」
と言うなり、
歩き出し、目前の電柱に顔を当ててしまいました。
痛そうに顔を押さえていて、
僕は失敗した、と悔やみました。
彼を慌てさせてしまった。。。。
「大丈夫ですか」
と言うと、
「いつものことですから」
と彼は痛そうに言いました。
それから、
腕を出して一緒に歩きました。
「お忙しいのに悪いです」
と言うものだから、
全然暇なんだ、
と僕は言いました。
どうもいつ腕を離してしまうか判らないほど、
弱い接触なので、
彼の左手を握って、
僕らは南へ進みました。
彼はまだきっと20代、
もしかすると、
10代かも知れません。
「僕の知人も見えなくて、あんまの仕事をしているんですよ」
と僕が言うと、
「あ、僕も(あんまの仕事を)してます!」
と彼が気を上げて言うものだから、
彼を見ると、
彼の左目から涙が出ていました。
それは、さっき、
電柱に当たった時、
痛くて出てくる涙です。
横断歩道を渡り、
ぽこぽこ歩きました。
彼が目指す場所の案内看板が出ていて、
左に折れて、
場所が見えてきました。
左側を彼は見て、
「あ、駐車場ですね」
彼が言い、
「そうです」
と僕。
「もう判りました」
彼は言い、
扉の前で、
僕らは「じゃあ」と言って、
彼は前進し、
僕は来た道を戻りました。
人工視覚技術のニュースの話を知っているか、
と彼に訊いてみたかったけれど、
とても繊細な内容なので、
やめておきました。
労働場に戻って、
「全盲か」
とOさんが訊きました。
「いや、そうではないと思います」
Oさんは、
「同情したらいかんけど、かわいそうだな」
と言いました。
「同情したらいかんけど」
を大きな声で言い、
そのあとの言葉は、
どこかに消えてしまうような、
小さな小さな、
声でした。
「どこの労働場に行っても、私はすぐに盲人に会ってしまいます。
もう数限りなく、です。僕が呼んでいるんです」
と言うと、
Oさんは、黙ってうなずきました。
人工視覚の話をして、
「それは凄い、見えるか見えないかでは全然違う」
とOさんは、
何かを見つめながら、
言いました。
「国がそれを使用するために、金を出すかどうかだ」
とOさんは言いました。
どうでもいいものに、
国がお金を使っていて、
目が見えない人たちが、
わずかでも光を感知できる装置を、
装着するだけの保証やケアに、
お金を使わない国ならば、
国をやめてしまえばいい。
そんなことを、
Oさんに強い口調で僕は言っていて、
「その通りです」
とOさんは言いました。
その肯定は、
僕に合わせて、
というのではなく、
Oさんは本当にそう思って、
言っていたので、
僕はうれしかったです。
「木と木は互いに話をしているそうですよ」
と僕が言うと、
Oさんは、何も言わず、
ただ僕を見て、
僕が見ているイチョウの黄色い葉を見て、
「そうかもしれない」
と声には出さずに、
言いました。
Oさんはそれから、
花に水をかけました。
僕は、
かりんとうを食べました。
少年からまだ青年になったばかりという具合の、
盲人を見かけました。
彼は傘に白杖をつけていました。
点字ブロックのない横断歩道を、
彼は渡り、そして戻ってきました。
僕のいる方へ曲がってくるので、
寄りました。
きっと、道を探していると思ったから。
案の定、ある場所へ彼はゆくのですけれど、
迷っていました。
「ちょっとここで待ってて」
と彼に言い、
Oさんに場所を訊き、
付き添っていってよいかの承諾を得ました。
彼に、
「一緒に行きます」
と言うと、
「いやいや、大丈夫です」
と言うなり、
歩き出し、目前の電柱に顔を当ててしまいました。
痛そうに顔を押さえていて、
僕は失敗した、と悔やみました。
彼を慌てさせてしまった。。。。
「大丈夫ですか」
と言うと、
「いつものことですから」
と彼は痛そうに言いました。
それから、
腕を出して一緒に歩きました。
「お忙しいのに悪いです」
と言うものだから、
全然暇なんだ、
と僕は言いました。
どうもいつ腕を離してしまうか判らないほど、
弱い接触なので、
彼の左手を握って、
僕らは南へ進みました。
彼はまだきっと20代、
もしかすると、
10代かも知れません。
「僕の知人も見えなくて、あんまの仕事をしているんですよ」
と僕が言うと、
「あ、僕も(あんまの仕事を)してます!」
と彼が気を上げて言うものだから、
彼を見ると、
彼の左目から涙が出ていました。
それは、さっき、
電柱に当たった時、
痛くて出てくる涙です。
横断歩道を渡り、
ぽこぽこ歩きました。
彼が目指す場所の案内看板が出ていて、
左に折れて、
場所が見えてきました。
左側を彼は見て、
「あ、駐車場ですね」
彼が言い、
「そうです」
と僕。
「もう判りました」
彼は言い、
扉の前で、
僕らは「じゃあ」と言って、
彼は前進し、
僕は来た道を戻りました。
人工視覚技術のニュースの話を知っているか、
と彼に訊いてみたかったけれど、
とても繊細な内容なので、
やめておきました。
労働場に戻って、
「全盲か」
とOさんが訊きました。
「いや、そうではないと思います」
Oさんは、
「同情したらいかんけど、かわいそうだな」
と言いました。
「同情したらいかんけど」
を大きな声で言い、
そのあとの言葉は、
どこかに消えてしまうような、
小さな小さな、
声でした。
「どこの労働場に行っても、私はすぐに盲人に会ってしまいます。
もう数限りなく、です。僕が呼んでいるんです」
と言うと、
Oさんは、黙ってうなずきました。
人工視覚の話をして、
「それは凄い、見えるか見えないかでは全然違う」
とOさんは、
何かを見つめながら、
言いました。
「国がそれを使用するために、金を出すかどうかだ」
とOさんは言いました。
どうでもいいものに、
国がお金を使っていて、
目が見えない人たちが、
わずかでも光を感知できる装置を、
装着するだけの保証やケアに、
お金を使わない国ならば、
国をやめてしまえばいい。
そんなことを、
Oさんに強い口調で僕は言っていて、
「その通りです」
とOさんは言いました。
その肯定は、
僕に合わせて、
というのではなく、
Oさんは本当にそう思って、
言っていたので、
僕はうれしかったです。
「木と木は互いに話をしているそうですよ」
と僕が言うと、
Oさんは、何も言わず、
ただ僕を見て、
僕が見ているイチョウの黄色い葉を見て、
「そうかもしれない」
と声には出さずに、
言いました。
Oさんはそれから、
花に水をかけました。
僕は、
かりんとうを食べました。