kotoba日記                     小久保圭介

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『千年、千年、千年』

2022年08月24日 | 生活詩

         



朝は冷え

夏の終わり

処暑を過ぎた日

山の麓にある

蔵の前に来てみた

しだいに陽光が注ぎ

すぐに夏日となる

これが処暑の色合いなのか

蔵は年中

冷えていて

穀物や川魚が

中に置いてあるらしいのだが

誰もそれを見ることはできない

蔵の持ち主さえ

秘められた里山の一端に過ぎない

蔵も里山の民も

気配さえ消そうとしている

消えかかる蔵に触って

手で蔵の消滅をとどめる

御法度かもしれなぬ

ただそのような者が

一人ぐらいいてもいい

福神を祀る祠

とんがり帽子を被った民たちが

眼前の埃道

行列をなして通ってゆく

石の如く冷たい表情で

「千年、千年、千年」

と呟き

遠ざかっていった

ここは流転している

蔵から手を離そうとしたら

すでにわたしの手は

蔵から離れず

蔵になりつつあった

叫ぼうにも声が出ず

足踏みしてもがこうとしても

足も蔵の前で動かぬ

このまま

わたしは蔵になってゆく

そう思った時

輪廻の中にいた

「千年、千年、千年」

わたしのこの口が

発していた

時も空間もなく

何もない場所で

わたしは冷たい蔵になる

福神の祠

冷たい手

木の根が

言う

「千年、千年、千年」

流転の蔵と化すわたしに向けて




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