大阪でのお仕事。早朝の集合時間ということで前泊となった。夜は一人で立ち飲みたかったが、せっかくだからとYちゃんに声をかけた。大阪に配属されたYちゃんである。
「どこに行きましょうか」。
そんなメールが来たとき、なんだか嫌な予感がした。それ、自分に聞くかなぁ。Yちゃんはもう大阪の住人なんだから、どっかみつくろってくれるだろうと思っていたが。
「Yちゃん行きつけのスナックでいいよ」。
と返した。大阪勤務になって3ヶ月、お酒がそれほど好きではないYちゃんが、行きつけの店を作るとは思えない。けれども、そういうことに気づいてほしいと思って、返信した。
しばらくして、Yちゃんから待ち合わせは各々の中間点の梅田にしましょうと連絡が来た。中間点とはYちゃんの住まいと自分が宿泊する新大阪である。お、梅田に知ってるお店でもてまきたかと思って、駅で落ち合ったら、「どこか知ってますか?」だって。そう来たか。
立ち飲みなら知ってるがと言いかけたが、それを飲み込んだ。ただ、食い倒れの街、梅田の食堂街で、座飲みの酒場を見つけるのは、難しくないだろう。適当に歩くと、「汐屋」という店が見つかった。結構レトロな感じで、2階にメインの客席があった。
まずは「生ビール」で乾杯。中ジョッキ530円は結構いい値段だ。
店に入ると、今度はYちゃんが攻勢を強めてきた。さっきまでは受け身だったのに。
「とんぺい焼き」(640円)、「新レンコンの天ぷら」をオーダー。自分なら頼まないものばかりで、逆に新鮮だ。
さて、自分はどうしようかと、串焼きをチョイス。「アキレス」と「ハート」(各180円)を2本ずつ。
Yちゃんの大阪暮らしは、ほぼ自炊らしい。いや、それは称賛されるべき生活だが、現地と早く溶け込みたいなら、酒場が一番手っ取り早い。とりわけ、大阪となれば、なおさらだ。けれど、Yちゃんはどうも夜の街に出て行ってないという。コロナもあるし、人それぞれの価値観はある。けれど、それって余りにも寂しすぎないかとも思う。
一連のつまみは、どれも平均的。実は「これは!」というものはなかった。例えば、この近所にある「松葉 本店」に行けば、雰囲気、味とも抜群の大阪に出会える。こういう体験が、大阪暮らしの楽しみを促進できると思うのだが、ここはやはり、お店のチョイスを間違えたか。
ただ、この「汐屋」というお店が、梅田で長く商売出来ているということは、言い換えると梅田における酒場のスタンダードとも言えるのではないだろうか。そう考えると大阪の酒場って、ちょっと退屈だ。しかし「食べログ」点数3.45って、高すぎないか。自分的には、アメ横にある、古典酒場になりきれない、しょーもない酒場って感じだ。
Yちゃんは、「昭和コロッケ」(250円)を追加し、最後に「焼きおにぎり」(140円)で〆た。結構、食べるなYちゃん。
さて、会計の段になった時、Yちゃんはおもむろにカバンから、見覚えのある封筒を取り出した。それは自分が3ヶ月前に渡した餞別の袋だった。
「今夜はここから出しますから」と彼は言った。
「え?」と思った。
そんなことして、自分が嬉しいと思うと彼は思ったのだろうか? いや、もしかすると、これは自分が払いますポーズだけで、この餞別の袋を出したら、自分がやめとけとなることを計算した行動なのか。複雑な思いが交錯した。
そもそもお金って、自分の家計に入った瞬間、溶け込んでしまう。ならば、彼が財布から出したお金が、仮に自分が渡した餞別のお札だったとしても、それはもう彼の家計の中での話しである。しかし、そうやって自分が渡した封筒の中にあれば、それはまだ、彼の家計に溶け込めていない。何故、そんなことをするのか。その金は、もっと有効に使ってほしいと思って渡したものだった。
「そんなので支払うなよ」。
ちょっと呆れて自分は言った。
いや、彼がそのお金をどう使おうが、自分の知ったことではない。でも、やっぱり自分との飲み会で使うのは承服できない。
なんだか複雑な気持ちで店を出て、彼と別れた。
翌日、家に帰って、かみさんにこのことを報告すると、「Yちゃん、お小遣い貰ってないんじゃないの?」と言った。
そうか、それはあり得るな。ならば、彼もちょっと気の毒だ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます