居酒屋さすらい 0506 - 角打ちのダンディ - 「松井酒店」（台東区台東）

上野の立ち飲みはほとんど行きつくしてしまった。アメ横も御徒町も、ただ１軒を除いては。
その１軒とは角打ちの「松井酒店」。噂ではよく聞くのだが、果たしてどこにあるのか知らない。そこで、今回はネットで調べて行ってみることに。

御徒町駅から昭和通りを超えて、東上野へ。昭和通りを超えると、街並みは変わる。住宅が多くなるから、空の視界が急に開けるのだ。だが、店舗は少なく、淡々と単調な建物が続くだけである。
松井酒店は簡単に見つかった。古い！建物は極めて古い。木造の昔ながらの酒屋である。コカコーラの看板に「松井酒店」の文字が大きく掲げられている。子どもの頃にタイムスリップしたみたいだ。

だが、店の中は、ただただ古いだけではなかった。アンティークを飾った演出で、店内は装飾されている。薄暗がりにカウンターがぼうっと照らし出される。カウンターの向こうには黒板でメニューが書かれている。なぐり書きのような字はそれだけでお洒落である。
客用のテーブルは酒樽。背後の壁には緑色に塗られた木の棚が古い西洋の絵画のような風合いでたたずんでいる。棚には、店主のコレクションなのだろうか、様々なランプが置かれ、店内をさらにひきたてている。
飲み物はスーパードライの生が300円。焼酎もあるが、ドリンクの中心はモルトウィスキーである。
そう、ここは角打ちではあるが、バーなのである。わたしは、まず生ビールを頼んだ。つまみは「バジルソーセージ」（400円）。角打ちとは思えないメニュー。悪くない。

何の曲か知らないけれど、AORの曲調も、雰囲気を醸しだす。だが、女性のバーテンが少しプレッシャーともいえる。にこりともしない女性が店内に張り詰めた空気を通している。さて、次に何を飲もうか。黒板を見たいけれど、たやすく見られない空気が張り詰める。
シングルモルト。わたしは苦手である。

そこで、パッと目に付いた芋焼酎の「原酒」のロック（500円）をいただく。銘柄はなにか、さっぱり分からないが、角打ちで供される焼酎がそんじょそこらのものであるわけがない。ゆっくり味わってみるのだが、それほどおいしいとは感じず、このチョイスは完全に失敗してしまった。

BGMの音楽以外、人の声すら聞こえない店内。多分、酒場にきて、わたしは初めての経験をしていると思う。これが、この店の空気感なのだろう。だが、わたしにはちょっと荷が重すぎた。芋ロックを飲み干し、カウンターの女性に「どうも」と声をかけ、店を後にした。美人の女性は最後まで笑わなかった。