カレーの種類が異様に多い店がある。
例えば、神田カレーグランプリを制した「日野屋カレー」とか。厳密にいうとトッピングのバラエティなのだが、自分はこういうお店はちょっと苦手なのだ。どれが一番人気なのだろうか、とかこれとこれが気になるが、やっぱりこれにしようとか。様々な雑念が生じて集中できないのだ。
基本的にはプレーンこそがベストだと思っている。そばならかけかもり。ラーメンならラーメン。カレーなら単なるカレーライス。
その点、メニューがひとつしかないお店には尊敬の念を抱く。蕎麦屋にはそんなお店は少ないし、ラーメン屋だって、なかなかそんなお店はお目にかかれない。しかし、カレー屋ならごく稀にそんなお店に遭遇する。
それが、新橋にある「スマトラカレー」。
昭和レトロのいかにもスタンドカレーといったあんばいの外観から、もはや只者ではない雰囲気を醸すが、カウンターに真っ赤な福神漬けを盛った皿が並ぶ様は、まるでインテリアかと思わせ、更にはメニューが「スマトラカレー」のみしかないことを初めて知る一見の客なら、まさしくスマトラの地にでも辿り着いたような錯覚を覚えるだろう。
スマトラカレーといえば、神保町の「共栄堂」が有名だ。大正13年創業の老舗。当時南方を旅した人より、レシピを伝授されたというスマトラカレー。この店が、その起源に由来しているのかは分からない。ただ、今眼前に出てきたカレーは、その老舗のカレーのは似ても似つかない色合いだ。やや黄色がかっているカレーソースは明らかにターメリックの色合い。だが、一口食べてみると我々の知っているカレーとは決定的に何かが違うことを悟る。和カレーではないし、もちろんインドカレーでもない。やはり、これはれっきとしたインドネシアカレーというべきか。
カレーソースはシャバシャバ。一見薄目かと思うのだが、コクがそれをカバーする微妙な均衡がある。コクの由来は残念ながら分からない。
先述した通り、カレーは「スマトラカレー」一種類。ご飯にカレーをかけられた普通盛りの「スマトラカレー」は550円。ご飯とカレーがセパレートになった「大盛り」は700円。「共栄堂」のカレーがハレならば、「スマトラカレー」は庶民のカレー。カレーの値段は600円が分水嶺だと思う。そんなカレーが次々に姿を消す中、「スマトラカレー」のカレー作りは高く評価したい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます