ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

ストレスチェックの正しい理解と活用を

2024-11-13 09:59:11 | 労務情報

 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、毎年1回以上、「ストレスチェック」(労働安全衛生法第66条の10にいう「心理的な負担の程度を把握するための検査」)を行い、結果を労働基準監督署に報告しなければならない(労働安全衛生規則第52条の21)。

 ところで、ストレスチェックは何のために行うのか、その目的は正しく理解されているだろうか。

 まず、労働者にとっては、自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、医師から助言を受けたり、場合によっては会社側に業務量の軽減などを求めたり、メンタル不調を未然に防ぐことが第一の目的だ。
 一方、会社にとっては、従業員のストレスの状況を知り、職場環境や業務量などがその原因と考えられる場合は、それへの対策を講じることで生産性向上や事故防止に、ひいては従業員の定着に寄与することが、ストレスチェックの目的と言える。

 ところが、ストレスチェックに関しては、「メンタル不調あるいはメンタル不調者を見つけ出すもの」と誤解される向きが多い。 そのため、「自分は健康だから受ける必要はない」「会社に知れたら昇進に影響しかねない」としてストレスチェックに非協力的な従業員も、雇う側の立場で「誰がメンタル不調者か教えてほしい」と要望する管理職も、少なくない。
 また、高ストレス者が多い集団の管理者の評価が低くなる傾向や、さらには、気に入らない上司を貶めるように部下(受検者)が回答するケースすら見聞きされる。 これでは、無意味どころか、逆効果にすらなりうる。

 経営者や労務担当者は、従業員(管理職を含む)に対して「ストレスチェックはストレスの度合いを測るものであって、結果が人事に直接影響するものでない」と明言したうえで、協力を求めるべきだ。
 そして、ストレスチェックの結果は、集団分析等の手法を用いて職場環境の改善に活かしたい。 ただし、個別に業務量の軽減などを求める従業員がいたら、それには丁寧に対応するべきであることは言うまでもない。
 もし自社内で対応するのが難しければ、EAP(従業員支援プログラム)機関等、外部に委託することを検討してもよいだろう。 無論それにはコストを要するが、ストレスチェックを実効性あるものにするための必要経費ととらえるべきではないだろうか。

 ストレスチェックは、もちろん法律上の義務であるので実施しなければならないのだが、義務感だけで実施しているのでは、もったいない。
 せっかくコストと時間を掛けて実施する以上は、意味あるものにするべきだろう。


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給与のデジタル払いを会社は積極的に採用するべきか

2024-11-03 15:49:18 | 労務情報

 給与は、原則として通貨で支払わなければならない(労働基準法第24条)が、労働者の同意を得た場合には「銀行・証券会社等の本人口座への振り込み」・「退職手当に限り小切手等での支払い」が認められてきた(同法施行規則第7条の2)。
 これをデジタル通貨(「〇〇ペイ」等と称する“日本円”の電子マネーを指す;“外国通貨”や“仮想通貨”は対象外)での支払いも可能とすることについて、ここ4年ほど議論されてきたが、今年8月に「資金移動業者の口座への賃金支払いに関する厚生労働大臣の指定」第1号が出され、ようやく実現する運びとなった。
 ただ、現時点では、その指定業者のグループ会社10社に限る、言ってみれば“テスト運用”といった扱いだ。 その指定業者の発表によれば「年内にすべてのユーザー向けにサービスの提供を開始予定」としている。
※グループ外の会社向け(まだ限定的だが)へもサービス提供を開始した旨、指定業者が発表(11月5日)

 では、この仕組みが本格稼働したら、会社はそれを積極的に採用するべきなのだろうか。

 会社にとって給与をデジタル払いにすることの最大のメリットは、指定業者の法人口座を保有していれば(現時点では)振込手数料が掛からないことだろう。
 しかし、個人の1口座保有残高は(現時点では)20万円までとされているため、それを超える金額が振り込めないのはもちろん、それ以下であっても受け入れる余地が不足する(その場合は予め指定した「代替口座」に支払われる)可能性が生じる。 だとすると、給与の全額を資金移動業者の1口座のみに振り込むのは現実的でなく、給与を分割して支払うことになり、振込手数料が無料であることのメリットは薄れてしまう。
 現に複数口座での給与受け取りを認めている会社であれば、その選択肢を増やして従業員の利便性を高めることもメリットになりうるが、これから新たに給与の分割払いを始めるのは、担当者の労力やミス・トラブルのリスクまで考えると、慎重にならざるを得まい。

 また、給与のデジタル払いを導入するには、以下の手順を踏まなければならない。
  1.指定資金移動業者の確認、サービス内容の検討
  2.過半数労働組合または過半数代表者との労使協定の締結、就業規則等の改定
  3.従業員への説明と個別同意
 これらは、通常の銀行口座への給与振り込みにあたっても必要な手続きである(平成10年9月10日基発第530号;令和4年11月28日基発1128第4号)のでデジタル払い特有のものではないが、新たに採用するとなるとハードルが高いと感じる経営者も多いだろう。

 給与の支払い・受け取りに関する事項なのでその確実性・安全性を考慮すると仕方ないのかも知れないが、当初期待されていた「デジタル社会の到来」には(現時点では)程遠い印象だ。


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研究開発職の労働時間管理は不要なのか?

2024-10-23 17:59:15 | 労務情報

 研究開発業務に従事する者(以下、本稿では「研究開発職」と呼ぶ)については「労働時間を管理しなくてよい」と思い込んでいる経営者も多いが、そう言い切ってしまうのはリスクを伴う。

 たしかに、研究開発職は「専門業務型裁量労働制」の代表格(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項に列挙される業務のうち第1号)であって、これの適用を受ければ、労使で合意した一定の時間数(みなし労働時間)を労働したものとみなすことになる。 しかし、専門業務型裁量労働制を適用するには、労使協定を締結し管轄労働基準監督署へ届け出たうえで、本人の同意を得る(同条第3項;今年4月1日より施行)等の手続きを踏んでいなければならないし、そもそも担当業務の特性等により労働時間を本人の裁量にゆだねることができないものだと裁量労働制は適用されないことには注意を要する。
 また、研究開発職に従事する労働者に係る三六協定(サブロク協定;労働基準法第36条に基づくのでこのように呼ばれる)には、その時間外労働時間の上限が無い。 これも誤解されがちだが、決して「研究開発職は上限なしで残業させられる」という意味ではなくて、時間外労働の限度時間を「行政からの指導による」のでなく「労使で決める」ということなのだ。

 そして本稿の本題、「裁量労働制が適用される研究開発職は労働時間をまったく管理しなくてよいか」と問われると、「労働時間の“管理”は不要だが、労働時間の“把握”は必要」と答えるのが正しい。
 というのも、労働安全衛生法第66条の8の3には「事業者は‥労働時間の状況を把握しなければならない」と定められ、その対象には研究開発職(高度プロフェッショナル制度の適用を受ける者を除く)も含まれるからだ。
 さらには、労働時間を把握した結果、時間外労働・休日労働が月80時間を超え、疲労蓄積があり面接を申し出た者は医師の面談指導を受けさせなければならない(同法第66条の8の2、労働安全衛生規則第52条の2)。 ここまでは研究開発職以外の職種に就く者と同じだが、研究開発職の場合には上述のとおり時間外労働の上限規制がないため、時間外労働・休日労働が月100時間を超えた者についても医師の面談指導が必須となっている(同規則第52条の7の2)。

 つまり、研究開発職の“健康”を管理することこそが重要なのであって、「労働時間の把握」はその手段に過ぎない。 「管理」だの「把握」だの言葉尻をとらえるのは、あまり意味が無いのだ。


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休養室の設置義務について

2024-10-13 15:53:12 | 労務情報

 常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業者は、休養室または休養所(以下、本稿では単に「休養室」という)を、男性用と女性用に区別して設けなければならない(労働安全衛生規則(安衛則)第618条、事務所衛生基準規則(事務所則)第21条)。
 ところが、「産業医・衛生管理者(業種によっては完全管理者も)の選任」や「衛生委員会(業種によっては安全衛生委員会)の設置」(これらも常時50人以上の事業場に義務づけ)は大多数の会社で守られている印象だが、「休養室」に関しては、労働基準監督署の調査でその不備を指摘される例がしばしば見られる。

 もしかしたら経営者の中には「休憩の設備」と混同している向きもあるのかも知れない。
 休憩の設備は、事業場の規模を問わず、著しく暑熱・寒冷・多湿であったり有害ガスや粉塵を発散する等の有害な作業場では設置が義務付けられている(安衛則第614条、粉じん障害防止規則第23条第1項、特定化学物質障害予防規則第37条第1項)が、それ以外の事業場では「設けるように努めなければならない」という“努力義務”とされている(安衛則第613条、事務所則第19条)。

 これに対し、休養室は、単に休憩できる場所という意味ではなく、体調不良の者が横になって休むことが想定されており、利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、
  (1) 入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
  (2) 関係者以外の出入りを制限する
  (3) 緊急時に安全に対応できるようにする
等の配慮が求められている。
 もっとも、長時間の休養が必要な場合は速やかに医療機関に搬送または帰宅させることが基本であることから、随時利用できる機能が確保されていれば、専用の設備である必要はないとされる。

 ところで、休養室の設置義務者に関し、現行法令では「事業者は‥」と定めているため、会社ごとに休養室を設けなければならないこととされているが、これに関して見直しを求める声も挙がっている。
 例えば、大規模商業施設のテナントとして入居している会社の場合、その施設内に要件を満たす休養室が設けられていれば各テナントは休養室設置義務を果たしたものとみなすのはどうか、という意見だ。 たしかに、この意見には一理ある。

 今後の法規制の動きも気になるところだが、それ以前に、もし休養室設置義務について知らなかった(または誤解していた)のであれば、すぐにでも対処を考えるべきだろう。


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パートタイマーの働き控えは社会的な問題に

2024-10-03 09:36:16 | 労務情報


 年末が近づくとパートタイマーの“働き控え”に頭を痛めている会社もあるだろう。
 「働き控え」は「就業調整」とも呼ばれ、配偶者の扶養の範囲内で働く者が勤務日などを調整するようになることだ。
 これは、一定以上の年収を得ると社会保険や税制の仕組み上、適用対象外(もしくは適用対象)になるためで、具体的には高い方から「130万円の壁」「106万円の壁」「103万円の壁」があり、これらを総称して「年収の壁」とも呼ぶ。

A:130万円の壁

 年収が130万円を超えると、社会保険の被扶養(保険料負担なし)から外れる。 すなわち、健康保険は国民健康保険に加入することになり、また、国民年金の第三号被保険者でなくなり第一号被保険者となり、いずれも保険料負担が生じることになる。
 また、配偶者の勤務する会社によっては(配偶者が公務員である場合も)、配偶者手当(家族手当・扶養手当)の支給対象でなくなるのも、この“壁”を高く感じさせる要因の一つだ。

B:106万円の壁?

 従業員50人超(令和6年9月までは100人超であったのが適用拡大)の会社に勤務する所定労働時間が週20時間以上かつ賃金月額が8万8千円以上のパートタイマーは、その会社の健康保険・厚生年金保険の被保険者となる。
 月額8万8千円を年額換算すると105万6千円であることから「106万円の壁」と“厚生労働省では”呼んでいるが、一般には馴染みの無い用語だろう。 第一、時給1026円以上(ちなみに東京都の最低賃金は1163円)であれば週20時間で月額8万8千円を超える計算になるのだから、そもそも働き控え(就業調整)に結びつく話ではない。

C:103万円の壁

 年収が103万円を超えると所得税を課されるようになる。 また、その配偶者の「配偶者特別控除」が段階的に引き下げられるようになる。
 103万円を超えた途端に税負担が急増するわけではないのだが、上にも挙げた配偶者手当(家族手当・扶養手当)の支給対象を「所得税非課税の配偶者を有する者」と定めている会社もあるのが「壁」と呼ばれる所以だ。


 これら「年収の壁」は、働く者の心理として理解できないではないが、働けるのに働かないのは、雇っている会社も困るし、社会全体として労働力不足の中、こういう傾向は避けたいところだ。
 国(厚生労働省)もこれを問題視しており、①社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外、②キャリアアップ助成金のコース新設、③配偶者手当見直しに向けての提言、といった対策を講じている。
 もっとも、これらは社会保険制度や税制の仕組みに起因するものであるので、将来的には、制度全体を見直さなければならないようになるだろう。


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退職勧奨が「退職の強要」にならないように

2024-09-23 04:41:26 | 労務情報

 会社の経営上の都合で、あるいは、従業員自身の能力等に問題があるためなどにより、特定の従業員を退職させたいことが起こりうるかも知れない。こうした場合、状況が許すならば、一方的に解雇するよりも、退職勧奨することをまずは検討したい。「会社が退職を勧め、労働者がこれに同意した」という形式を取ることにより、本人の納得を得られ、後のトラブルに発展しにくくなるからだ。
 しかし、これが「退職勧奨」のレベルを超えた「退職の強要」になってしまったら、そこでの同意は事後に取り消すことができ(民法第96条)、また、そもそもの目的に反してトラブルに発展するリスクすら高まるので、退職勧奨する際には慎重な対応が求められる…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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定期健康診断に女性向け項目を追加することのハードル

2024-09-13 08:27:44 | 労務情報

 厚生労働省に昨年12月から設置された「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」において、労働安全衛生規則第44条に定められている検査項目に「女性の健康に関する事項」(月経困難症・更年期に係る問診、その他女性の就業率向上に着目した検査項目)を追加することが検討されている。

 これは、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)」(すべての女性が輝く社会づくり本部・男女共同参画推進本部;令和5年6月13日決定)で「事業主健診(労働安全衛生法に基づく一般定期健康診断)に係る問診に、月経困難症、更年期症状等の女性の健康に関連する項目を追加する」と、「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針2023)」(令和5年6月16日閣議決定)で「事業主健診の充実等により女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会を実現する」と、それぞれ示されたことに基づき、健診項目を追加するにあたっての障害や配慮すべき事項を整理しているものだ。

 検討会では、次のような意見が出されている。
  ・健康診断は原則無症状のものが対象になるが、その意味で効果があるか
  ・検査で判明した健康事象・危険因子が業務に起因もしくは業務によって増悪するか
  ・有所見とされた者に対して事業者が実施できる事後措置(就業上の措置)は何か
  ・有所見とされた者に対して過度に就業制限をかけることの不利益可能性はないか
  ・検査は巡回健診でも実施可能か、また、対象となる労働者全員に対して実施可能か
  ・検査に要する費用の増大を事業者が許容できるか
  ・検査結果は「事業者が把握するべき健康情報」として事業主に提供できるか
  ・要望する声の多い「がん検診」や「眼底検査」等の追加は考えないのか
 その他にも否定的な意見も目立つが、上述のとおり女性向けの健診項目を追加することは既定路線であるので、その適切な実施を担保する方法やそのための政府指針を示す方向で意見が集約されるものと思われる。

 ちなみに、日本経済団体連合会は「2024年版経営労働政策特別委員会報告」において、女性の一層の活躍促進に向けて「働き続けられる環境の整備」等に積極的に取り組むとしており、具体的には、①生理休暇を刷新・拡充した「L休」(「Life Style Support 休暇」の略)の創設、②女性の健康に関する管理監督者への意識啓発、③産業保健スタッフによる相談支援や専門医への受診勧奨等、女性の健康と仕事との両立支援に向けた実効性ある対応に着手することとしている。
 これらも働く女性の健康保持に有効な施策であるので、健診項目の追加と併せて検討する価値はあるだろう。


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社会保険の適用拡大を踏まえてワークシェアリングの活用を

2024-09-03 09:03:49 | 労務情報

 社会保険は長らくいわゆる正社員またはそれに近い労働者を適用対象としてきたが、健康保険・厚生年金保険は(各種要件はあるものの)週20時間以上就労する者が強制適用となり、その要件が今年10月にさらに緩和(適用拡大)される。
 また、雇用保険も、週10時間以上就労する者を被保険者とする改正法(令和10年10月1日施行)が先ごろ成立した。

 こうした動きを踏まえて、自社内におけるワークシェアリングを考えている会社もある。 というのも、これまでワークシェアリングを躊躇させていた「従業員各人の業務量(端的に言えば労働時間)を減らすと社会保険の適用から外れてしまう」というボトルネックが解消されるからだ。

 「ワークシェアリング」は直訳すれば「仕事を分け合う」ことであり、「1人に任されていた業務を複数人で分ける」と説明されることもあるが、イメージで言えば「3人の業務を4人で分担しなおす」というのが現実的なところだろう。 これにより1人あたりの業務量は25%減となる計算だ。
 もっとも、業務量が25%減ったからと言って賃金を25%減額するのは労働者が納得しないだろうし、それまでは不要だった“調整”業務が増え、また当然“引き継ぎ”も必要になるだろうから、経営者としては「ワークシェアリングは短期的にはコストアップにつながる」と理解しておかなければならない。

 それでも、ワークシェアリングには以下のようなメリットがあるとされる。
 まず、マクロ的には、雇用を創出すること、育児中・介護中の者や高齢者等がそれぞれの意欲と能力に応じて働けるようになること、ひいては人口減少社会にあって労働力不足に対処できるようになる、といった効果がある。
 個々の企業においても、従業員の健康保持が図れ、組織の連携や一体感醸成にも寄与しうるといったメリットがある。 また、ワークシェアリングを進める過程で業務プロセスの見直し(リエンジニアリング)が必須であることから業務が効率化することも期待できる。 さらには、副次的な効果として、従業員が“自分の時間”(それが自己啓発であれ副業であれ)に得たものが会社にフィードバックされる可能性もある。

 もちろん、市場が縮小している業界においては「雇用が維持できる」という最大のメリットがあるわけだが、上に挙げたようにワークシェアリングには他にもさまざまなメリットがあるので、業績が好調であっても、積極的な活用を考える価値があるのではなかろうか。


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労働者代表の複数化・常設化を検討中(労働基準関係法制研究会)

2024-08-23 08:59:07 | 労務情報

 「時間外労働に関する協定」(俗に「三六(サブロク)協定」とも呼ばれる)を初めとする各種の労使協定は、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合が無い場合には、労働者の過半数を代表するもの(以下、「労働者代表」と呼ぶ)と締結する。 また、就業規則を制定する際にも労働者代表の意見を聴かなければならない。

 この労働者代表は、挙手や投票(「回覧方式での投票」や「社内ネットを用いた投票」でも差し支えない)等の民主的な方法によって選出されるべき(H11.1.29基発45号)なのだが、現実には、経営者が特定の者を指名したり、親睦会の代表が自動的に労働者代表になったりするケースも少なくない。
 このような不適切な選出方法では適用される労使協定の有効性にすら疑問符が付いてしまうので、そのような取り扱いをしている会社はすぐに改めるべきだ。

 ところで、今、厚生労働省に設けられた「労働基準関係法制研究会」では、この「労働者代表」を複数化・常設化しようとする議論が進んでいる。
 そもそも、労使協定というのは、「労使が合意した事項については労働基準法等の規制を緩める(デロゲーション)」という位置づけがあるところ、それほどの重責を1人の労働者に担わせていることを当事者(労使とも)が理解していない現状があるので、それを改めようというものだ。

 これに関し、日本経済団体連合会は「労使協創協議制」(選択制)を提案している。
 これは、労働者の中から民主的な手続きにより複数人の代表を選出し、行政機関により認証を受けたうえで、会社との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限を付与するというものだ。
 ただ、この提案で気を付けたいのが、過半数労働組合の無い会社が労使協創協議制を選択しなかった場合には労使協定が締結できない(労働基準法等の例外規定が適用されない)としていることだ。 この点、中小零細企業には受け容れがたいかも知れない。

 一方、日本労働組合総連合会は「労働者代表法」の制定を要望している。
 その案によれば、労働者を代表する複数の者から成る機関(労働者代表委員会)を設置し、その自主的・民主的な運営や使用者との対等性を確保する枠組みを法的に整備するとしている。
 これまで連合は、労働組合でない「労働者代表」に対して否定的なスタンスであったが、少し軟化して、「労使コミュニケーションの中核的役割の担い手は労働組合であるべき」としつつも、「労働者代表の選出や運用について法で規制する」という現実的な歩み寄りを見せた印象だ。

 具体的にどのように変わるかは今後の議論を待つことになるが、現状の労働者代表の在り方について労使とも問題意識を持っており、その解決のためには労働者代表の複数化・常設化が必要、という方向性は定まりつつあると言えよう。


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「ハローワーク別地域指数」記載誤りは全国・全業種に影響

2024-08-13 09:08:17 | 労務情報

 厚生労働省は、昨年8月に公表した「ハローワーク別地域指数」の一部(全434所のうち、神奈川・山梨・長野・新潟以西の275所)に誤りがあることを発表した。
 これは、全国のハローワークの所管地域ごとに「一般労働者の賃金の水準(一般賃金水準)」を示したもので、派遣労働者にとって実質的な“最低賃金”に相当する。
  【参考】職業安定局需給調整事業課報道発表(令和6年5月24日)

 では、ここで、派遣労働者の待遇決定方式について、改めて確認しておこう。
 いわゆる「同一労働同一賃金」の観点から、派遣労働者も派遣先(派遣労働者を受け入れる事業所)の労働者と不合理な待遇格差があってはならない(労働者派遣法第30条の3)。 これは必ずしも“均等”でなくてもよいが、“均衡”の取れた待遇が求められている。
 しかし、この「派遣先均等・均衡方式」により派遣労働者の待遇を決定することにすると、派遣先は自社従業員の賃金等に関する情報を派遣元(派遣会社)に提供しなければならず、また、派遣労働者本人にとっても派遣先が変わるたびに待遇が見直されるという不合理が生じる。
 そのため、9割近くの派遣元では、同法第30条の4の規定に基づき、過半数労働組合または過半数労働者代表との「労使協定」により待遇を決定しているのが現状だ。
  【参考】労働政策審議会資料『労使協定書の賃金等の記載状況について』(P.1)

 この「労使協定方式」により派遣労働者の待遇を決定するには、「厚生労働省令で同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として定める額以上の賃金とする」等の基準が設けられている。

 今般、その金額に誤りがあったということなので、訂正後の(正しい)一般賃金水準に満たない労使協定を締結している派遣元では、新たな協定を締結して(経過措置期間は今年9月30日まで)賃金額を引き上げ、加えて、今年4月から新協定発効までの間の賃金差額を補うことを労使で検討しなければならない。

 こうした派遣元事業主に対し、厚生労働省は現在、雇用保険二事業により支援する方向で検討している。
 具体的には、「人材確保等支援助成金」の下に時限措置として、①賃金制度の整備に係る基本経費として5万円、②雇用する派遣労働者1人当たり1万円、③(①②の合計額を超えざるを得ない場合)実費、を助成する案が示されている。

 それにしても、この原資は雇用保険料の事業主負担分から賄われるということだから、今般の行政の不始末は、派遣元・派遣先だけでなく、また、地域も問わず、すべての事業所に影響が及ぶと言えよう。


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