ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

社用PCの私的利用とその監視の是非

2024-08-03 12:47:30 | 労務情報

 従業員が会社から貸与されたPCやスマホあるいはネットワーク(以下、「社用PC等」と呼ぶ)を用いて業務に関係ないメール送受信やSNS投稿やネットバンキング操作等(以下、「私的利用」と総称する)をしていたら、会社は懲戒することができるのだろうか。

 そもそも、社用PC等を私的利用してよいか否かを問うならば「否」と答えざるを得まい。 社用PC等も業務用に付与したメールアドレス(SNSアカウントを含む)も、その所有者が会社である以上、それを貸与した目的以外に使うことは認められないからだ。
 しかし、私用メールの“受信”については、業務用のメールアドレスを家族や友人に知らせることは珍しくなく、それを禁じる合理的な理由も無いので、これは許容範囲内と言えるだろう。
 一方、私用メールの送信その他積極的な私的利用は、業務用メールアドレスを使おうと私的メールアドレスを使おうと、いずれにしてもメールを打っている間や操作している間は職務専念義務(労働契約に付随する義務)を果たしていないことになる(東京地判H14.2.26等)。
 とは言え、民法493条は「債務の本旨に従った弁済」を求めているのであって、当人の執務自体もしくは職場の業務運営全体に支障が生じるほどでない限りは私用メールを送ったことを咎め立てるのは酷にすぎよう(参考:東京地判S42.11.20;“私用電話”に関する裁判例)。 また、会社の電話機を用いて私用電話を掛けた場合における「電話料金」のような“目に見える損害”が、社用PC等の私的利用では生じないことも考慮されるべきだろう。

 結論として、社用PC等の私的利用を禁じること自体は可能であるが、それへの違反行為を懲戒の事由とするのは、現実に、その頻度や内容の不適切さ等により業務に支障が出たり、有形・無形の損害を被ったりした場合に限る、と認識しておくべきだろう。

 ところで、こうした案件を論じる時には、プライバシー権(日本国憲法第13条「幸福追求権」の一つと解釈される)についても理解しておかなければならない。 というのも、社用PC等であったとしても、その利用方法に関して利用者(この場合は従業員)に一切のプライバシー権が無いとは言えないからだ。
 上述のとおり社用PC等は会社の所有物であるから、会社は施設管理権の一環として、その利用方法を監視することは問題ない。 しかし、それが「責任ある立場でない者によるもの」・「職務上の合理的必要性なく個人的な好奇心等から行われたもの」・「監視している旨を秘匿してのもの」であった場合などには、「社会通念上相当な範囲を逸脱した監視」として、プライバシー権の侵害となりうる(東京地判H13.12.3;この判決では請求棄却)。
 逆に、会社は「責任ある者が職務上必要な範囲で利用方法を監視する」旨を周知しておくべきであり、また、そうすることで私的利用や不適切利用を抑止する効果も期待できそうだ。


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従業員の個人資料はいつまで保存しておく?

2024-07-23 09:01:08 | 労務情報

 労働基準法第109条には、「労働者名簿」・「賃金台帳」等を「3年間」保存しなければならない旨が定められている。また、労働安全衛生規則第51条では、「健康診断個人票」を「5年間」保存しなければならないとしている。その他、雇用保険に関する書類は「4年間」、社会保険に関する書類は「2年間」と、それぞれ法令で保存期間が定められている。
 さて、これら従業員の個人情報を含む資料は、保存期間経過後は、廃棄して良いのだろうか。あるいは、むしろ、保存期間を経過したら、積極的に廃棄するべきなのだろうか…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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古くて新しい「つながらない権利」

2024-07-13 16:59:12 | 労務情報

 勤務時間外に業務上の連絡を受けないのは、通信手段が限られていた時代は当然のことであった。 また、社外からの電話に対し、在社している者が「〇〇はお休みをいただいております」などと返答するのも、ほんの十年ほど前までは普通に見られた光景だ。
 しかし、携帯電話の普及やメール・SNS等の発展に伴い私生活中に仕事の連絡が入ることが増えたことにより、2010年ごろからフランス・ドイツを中心に「つながらない権利」(=勤務時間外に業務と“つながらない”権利;より強い語調で「アクセス遮断権」と呼ぶ向きもある)が主張されるようになった。

 わが国でも、新型コロナウイルス感染症の流行により在宅ワークが進んだことを契機に、この「つながらない権利」が注目されるようになってきた。
 日本労働組合総連合会(連合)が昨年12月に公表した「“つながらない権利”に関する調査2023」によれば、「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」と回答したのが72.4%(コロナ禍前より8.2ポイント上昇)、「勤務時間外に取引先から業務上の連絡がくることがある」と回答したのも44.2%に上っていて、連合もこれを問題視している。
  【参考】日本労働組合総連合会「“つながらない権利”に関する調査2023」

 そもそも、勤務時間外に業務上の連絡を入れて対応させたなら、それは「労働時間」に他ならない。 しかも、日ごろより「連絡があったら対応せよ」と指示しているのであれば、連絡を待っている時間すべてが「手待ち時間(=労働時間)」ということになる。

 なので、社内(部下・同僚・上司)に関しては、当人が勤務時間外であることを承知しているはずなのだから、連絡しないことを徹底させたい。
 もちろん、どうしても連絡を取らなければならない事態も起こりうるだろうが、それは突発かつ緊急の例外事象と認識しておくべきだ。

 さて、これが社外(取引先・行政機関等)からの連絡となると、どう対処すべきか悩ましいところだ。
 担当者の勤務時間外に入ったメールは受信せずに削除するシステムを導入している企業(特に外資系)もあるが、社外からの連絡まで一切拒否するのは、少なくとも日本人の感覚にはなじまないだろう。 ただ、受信するけれども「対応には時間(日数)をいただきたい」旨のメッセージを自動返信することぐらいは検討してもよいのではなかろうか。

 会社によっては、かなりの意識改革が必要になるかも知れないが、オン・オフの境界を明確にすることは生産性の向上につながり、また、担当者不在時のカバー体制を構築するのにも寄与しうる。
 「つながらない権利」は、厚生労働省に設置された労働基準関係法制研究会でも議論の俎上に載っているので、これを踏まえた対応を各企業で考えたい。
  【参考】厚生労働省「労働基準関係法制研究会(第5回)資料No.3」(P.10)


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リスキリングとアンラーニングは相容れないものではない

2024-07-03 07:59:38 | 労務情報

 これまで日本企業における従業員の人材育成は、OJTに代表される「アップスキリング」(up-skilling)に重点が置かれていた。 しかし、近年の急激なデジタル化の進行等により、これでは不充分(場合によっては不適切)になりつつある。
 そこで提唱されているのが、「リスキリング」(re-skilling;「リ・スキリング」とも表記されるが本稿では「リスキリング」で統一する)や「アンラーニング」(un-learning)といった“学び直し”の機会だ。

 まず、リスキリングは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応して価値を創造し続けるために、必要なスキルを獲得する/させること」(厚生労働省労働政策審議会労働政策基本部会資料「リスキリングをめぐる内外の状況について」より)と定義される。 つまり、「リスキリング=DX教育」ととらえる向きも多いが、そう決めつけることはなく、例えば、GX(グリーントランスフォーメーション)への対応もリスキリングの方向性の一つと言える。
 そして、企業がこれを進めることで、現下の社会変容にも自社の新規事業展開や将来的な業態変更にも適応できるようになることが期待される。経済産業省や厚生労働省も、これへの支援策を打ち出している。
  【参考1】経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
  【参考2】厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」

 一方のアンラーニングは、直訳して「学習棄却」、または意訳して「学びほぐし」とも呼ばれ、これまで学んできた知識や身につけた技術を一旦捨てることをいう。 もっとも、そこには当然、取捨選択(その過程が業務の見直しにもつながる)が必要であり、また、リラーニング(re-learning)ともセットで考えなければならない概念だ。
 アンラーニングは、従業員に自己否定感をもたらしディモチベーションともなりかねないリスクを伴うものの、(やり方次第ではあるが)従業員の意識変革を促し、組織の若返りも図れるという大きなメリットがある。

 誤解されがちだが、リスキリングとアンラーニングは対立概念ではない。
 リスキリングは新たな分野における知識や技能を身に付けるのに対し、アンラーニングは同じ分野における新しい価値観や枠組みを身に付けるものであって、相容れないものではないし、リスキリングの前提としてアンラーニングが必要になるケースもあるだろう。

 これからは、リスキリングとアンラーニングと、さらにはリカレント教育(職場を離れて大学院等で学び直す)や従来型のアップスキリングや自己啓発推進制度等も上手に組み合わせて、新しい時代に対応できる従業員を育成することが企業に求められよう。


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労働条件の不利益変更に係る個別合意が無効とされないためには

2024-06-24 08:52:26 | 労務情報

 労働条件を労働者にとって不利益に変更するには、該当する従業員全員と個別に合意を交わす方法(労働契約法第8条)と就業規則を変更する方法(同第9条・第10条)とがある。
 これらのうち後者は会社が一方的に決めることができるためトラブルになりやすいのは想像に難くないが、前者であってもその合意の効力が争われることがある。

 裁判所は、「労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである」(最二判S.48.1.19、最二判H.2.11.26、最二判S.28.2.19等)との立場に立つ。
 具体的には、次のような観点をもって、その同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたもの」と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かを判断される。
  (1) その労働条件変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度
  (2) 労働者により同意がされるに至った経緯及びその態様
  (3) 同意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等

 これを踏まえて考えれば、
  (1)に関して…
   他の条件を引き上げて不利益を軽減する、激変緩和措置を設ける、実施までの猶予を置く、期間限定とする
  (2)に関して…
   会社が倒産の危機に瀕している、役員報酬を減額している、同業他社やグループ企業の相場や慣習に合わせている
  (3)に関して…
   複数回にわたり丁寧に説明した、裏付け資料を用いて説明した
といったケース(例示)であれば、個別合意に基づく不利益変更の合理性が高まると言えそうだ。
 逆に、安直に「同意書」を提出させただけでは、その合意が否認される可能性が高いと認識しておくべきだろう。

 一般に、労働条件の不利益変更に際して個別合意を交わしておくとトラブルになりにくいとは言われるが、それでもトラブルにならないわけではない。
 経営者は、労働者に誠意をもって説明し、形式ではなく、本当に納得して合意してもらえるように努めなければならない。


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退職代行への会社としての対処

2024-06-13 08:59:54 | 労務情報

 自社の従業員が退職代行業者(本人に代わって退職の意思表示や退職手続きをしてくれる業者;労働組合や弁護士であるケースも含む)を利用して退職しようとした際、会社はどう対処したらよいだろうか。

 まず、経営者としては、この段階まで来たら、その退職を引き留めることはできないと認識しなければなるまい。
 そもそも退職すること自体が本人の自由であるのだし、加えて、退職代行業者を利用するのは、「会社が退職させてくれない」「職場でハラスメントを受けている」等の事情があるからであって、つまるところ「会社が信用できない」との意思表示とも言えるからだ。
 ただし、当該従業員に関して懲戒解雇に該当する事由が生じている場合は、自己都合での退職を認めるべきではないので、それだけは気を付けたい。

 そして、本人に連絡が取れるなら直接、本人が会社からの接触を拒否しているなら当該退職代行業者を介して、本人自筆の退職届(「退職“願”」はこのケースではそぐわない)を提出させる。 同僚や家族が本人になりすまして退職代行業者に依頼していることも考えられないではないので、必ず本人の意思を確認し、書面で残しておくべきだ。

 退職届が提出されたなら、後は、通常の退職手続きを淡々と進めるだけだ。
 有給休暇の消化を要求されたなら退職日までの間で取らせ、健康保険証や会社からの貸与物等を返還させ、失業給付を受ける予定の者には離職票交付を手配する。 最後の給与や退職金の支払い等も通常の退職者と同様に取り扱う。
 ちなみに、退職代行業者を利用したことは、こうした手続き面で不利益に取り扱うべき理由にはなりえない。 業務引継ぎに支障があった(実際そうなるケースが大多数と思われる)等により会社が現実に損害を被った場合はその賠償を請求することが可能だが、その場合でも、損害額を給与や退職金から勝手に控除することは許されない。

 その一方で、当該従業員が退職する意思を固めた理由や、それを会社に直接示さなかった(示せなかった)ことについて、社内でしっかり検証するべきだ。
 事情によっては、退職者から訴訟を提起されることも想定しておかなければならないだろう。また、上司の評価や処遇を見直したり、職場全体の悪習を洗い出したりする必要があるかもしれない。

 会社としては退職代行業者を利用されたことへの不快感はあろうが、どちらかと言えば非は会社にある(ことが多い)のだから、むしろ猛省を促したいところだ。


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パートタイマーにも慶弔休暇を

2024-06-03 12:59:55 | 労務情報

 従業員に祝い事や不幸があったときにその日を休んでよいこととする「慶弔休暇」の制度を設けている会社は多いが、それを無給とするか有給とするかは、会社によって分かれているようだ。

 そもそも慶弔休暇は法令で義務づけられたものではない。
 労働基準法に定める年次有給休暇(第39条)、産前産後休業(第65条)、生理休暇(第68条)、公民権行使の時間(第7条)、育児介護休業法に定める育児休業(第5条)、介護休業(第11条)、子の看護休暇(第16条の2)、介護休暇(第16条の5)といった「法定休暇」とは異なり、慶弔休暇を設けなければならないわけではなく、また、その不就労の日数について「ノーワークノーペイの原則」に則り賃金を支払わないこととするのも、法令上まったく問題ないのだ。

 これに関しては、厚生労働省が示している「モデル就業規則」にも、
   第43条(抄) 慶弔休暇の期間は、無給 / 通常の賃金を支払うこと とする。
と書いてあり、会社が任意で設定できる形になっている。

 ところで、まれに「無給とするなら“欠勤”と変わらないのではないか」との疑問を抱く向きもあるが、その日は就労を免除するのだから、就労するべき日に就労しない欠勤とは性格が違う。 慶弔休暇を利用したことをもって評価してはならないし、年次有給休暇付与の際に用いる出勤率の算定においても分母(労働日)に含めない。

 しかし、これらを踏まえても、一般的には、慶弔休暇は有給とするのが望ましいと言われる。
 というのも、賃金を支払わないこととしては、会社が慶弔休暇の制度を設けた趣旨(おそらく会社からの祝福・弔慰等の意が込められていたであろう)に反してしまうからだ。

 ただ、慶弔休暇を有給とした場合、それは、いわゆる正社員だけでなく、パートタイマーや短期雇用社員も適用対象となることには注意したい。
 『同一労働同一賃金ガイドライン』(厚生労働省告示第430号)には、「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければならない。」と明記されている。
 だからと言って、そのこと(だけ)を理由に「正社員の慶弔休暇を廃止する」というのは、本末転倒であるし、明らかな不利益変更でもあるので、そのような短絡的な考えは慎みたい。


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昼休みに電話を受けさせたら労基法違反?

2024-05-23 08:59:55 | 労務情報

 昼休みに社外から電話が掛かってきたときに、その電話を受けることを義務づけている会社は少なくない。 この場合、「労働時間に算入するのは実際に電話対応していた時間だけ」と誤解している労務担当者も散見されるので、ここで再確認しておきたい。

 実は、こうしたケースにおいては…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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勤務間インターバルの導入を検討したい

2024-05-13 08:23:44 | 労務情報

 「勤務間インターバル」とは、終業時刻から次の始業時刻までの間に一定の休息時間を設けるもので、労働時間等設定改善法第2条第1項が「事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、‥講ずるように努めなければならない」と定める措置の一つだ。
 また、「時間外・休日労働に関する労使協定」(いわゆる「三六協定」)において、特別条項により限度時間を超えて労働させる場合に講じるべき「健康福祉確保措置」としても選択肢に含まれている。

 具体的な終業から始業までのインターバル時間は、法令やガイドラインに明記されてはいないが、後述する助成金の関係から「9時間以上」または「11時間以上」としている会社が多い印象だ。
 ちなみに、EU(ヨーロッパ連合)労働時間指令(1993年制定、2000年改正)は、「24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与」としている。

 さて、勤務間インターバルを導入すると、次のようなメリットがあるとされる。
  1,休息時間(=睡眠時間)が確保できることで、生産性が向上し事故が減る
  2.従業員のワークライフバランスを実現できる
  3.多様な働き方に対応でき、従業員の定着やリクルート面での訴求に効果がある
  4.「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の対象となりうる
   ※「中小事業主」・「月45時間を超える時間外労働の実態がある」等の要件あり

 一方で、次のような懸念から勤務間インターバルの導入に二の足を踏む会社も多い。
  1.始業を遅らせることで事業に支障が出る可能性がある(カバー体制確立の必要性)
  2.朝礼や定時ミーティングの実施が難しくなる(働き方の固定観念払拭の必要性)
  3.不就労時間に対して賃金を支払うこととするとコストアップと不公平感を生む
   ※始業が遅くなっても定時出社したものとして取り扱う場合(そうする例が多い)

 もちろん、これは“努力義務”であって“義務”ではないので、導入するか否かは会社ごとの事情によるが、勤務間インターバルは、長時間労働対策として、労働時間をただ減らすものとは異なり、会社にとって取り組みやすい方策の一つと言える。 実際、厚生労働省が今年1月23日に公表した「労働時間制度等に関するアンケート調査結果について(速報値)」(P.10)によれば、半数近くの会社が何らかの形で勤務間インターバルを導入しているようだ。
 未導入の会社は、労働環境改善の一策として検討してみてはどうだろうか。


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定年制を廃止することのメリットとデメリット

2024-05-03 09:59:56 | 労務情報

 ネット上に「2025年に65歳定年が義務化される」と書いている記事を見掛けることがあるが、これは誤り(もしくはミスリーディング)であることを、まず指摘しておきたい。
 高年齢者雇用安定法は、その第8条で「定年の定めをする場合には当該定年は60歳を下回ることができない」と定めており、これは来年になっても変わらない。ただ、同法第9条第1項第2号の「65歳までの継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)」については、平成25年4月1日時点において継続雇用制度の適用基準に関する労使協定が締結されていた場合はその基準に則って対象者を選定することが可能であるところ、その経過措置が令和7年3月31日で終了するということなのだ。(同法附則(平成24年9月5日法律第78号)第3項)

 ちなみに、令和3年4月1日に改正施行された同法第10条の2では、70歳までの就業を確保することを事業主の努力義務としている。

 さて、こうした情勢を踏まえて、定年延長を検討している会社も多いと思われるが、中には、定年制そのものを廃止すること(文字通りの「終身雇用」)も選択肢に入れている会社もあるだろう。 経済協力開発機構(OECD)が1月11日に公表した『対日経済審査2024』でも、日本企業における定年制の廃止について言及している。

 では、定年制を廃止することにはどのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。 以下に整理してみる。

【定年制廃止のメリット】
  1.雇用が確保できる(OECDはこれを提言している)
  2.従業員の知識・ノウハウを活用できる
  3.採用や教育に係るコストを削減できる
  4.従業員が安心して働き続けられる

【定年制廃止のデメリット】
  1.能力の衰えた者でも雇い続けなければならない
   (状況次第では解雇や退職勧奨も可能だが「事業主都合での離職」として扱われる)
  2.人件費(賃金・退職金等)が増大する
   (これを解決しようとすると「労働条件の不利益変更」になる可能性がある)
  3.人事が硬直化し、若手従業員のモチベーションが低下する
   (一方で高年齢従業員のモチベーション維持も考えなければならない)

 何事にもメリットとデメリットはあるものだが、こと「定年制」は、日本の雇用慣行として根付いてきたものなので、廃止するにしても熟考を重ねたうえで判断するべきだろう。


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