「団体交渉」と聞いて、「わが社には労働組合が無いから関係ない」と考える経営者も少なくないが、今や労働委員会が扱う集団的労使紛争のうち7割がたは合同労組(※)が関与しているので、企業内組合の有無に関わらず、また、企業規模の大小にも関わらず、すべての企業において、団体交渉を申し入れられる可能性があるとの認識を持っておく必要がある。
(※)「合同労組」とは、企業の枠を超えて地域単位で労働者を組織する労働組合を言う。「一般労組」・「地域ユニオン」などと呼ばれることもある。
さて、では、団体交渉にあたって、会社側からは誰を出席させるのが良いだろうか。
まず、「社長」の出席について考えることとする。
社長が直接交渉に応じれば「話が早い」ので、労働組合側からは社長の出席を求めてくる例が多い。しかし、即断できない(あるいは即断すべきでない)事案もあるし、うっかり口を滑らせたことで言質を取られる危険性もあるので、できれば最終責任者は(少なくとも初回の交渉には)出席しない方が無難と言える。
とは言っても、社長が団体交渉に出席することは、会社側にとってデメリットばかりではない。その場で結論を出して問題を後送りしなければ余計な時間や労力を費やさずに済み、また、トップが腹を割って話し合う姿勢を示すことで丸く収まるケースもあるだろう。ただ、その場合は、感情にまかせた不用意な発言の無いよう、くれぐれも気を付けなければならない。
では、「人事部長」や「弁護士」が出席するのはどうか。
法律上は、使用人であれ外部の者であれ、交渉権限を委任するのは自由である。また、「言って良いこと」と「言ってはいけないこと」の分別が付く専門家に任せておけば会社としては安心できるといった側面がある。
ただし、単に会社側の回答を伝えるだけに終始したり、すべての案件を持ち帰って経営者の判断を仰ぐこととしたりするのでは、「権限を委任されている」とは言いがたく、「団交拒否」(不当労働行為の一つ)とも取られかねないので、それはそれで要注意だ。
最後に、「社労士」(社会保険労務士)の出席について考えてみたい。
法改正により社労士が労働紛争に関与することも可能となったが、依然として「法律行為を代理すること」は弁護士の独占業務である(弁護士法第72条)ので、社労士が単独で団体交渉に臨むことは許されないと解される。社労士が団体交渉の場に出席するのは、あくまで「経営者の補佐という立場で“同席”する」という認識を持っておかなければならない。
なお、まれに社労士の同席を拒む労働組合もあるが、それは図らずも「経営者の法的無知に乗じて過剰な要求をしている」と認めたに等しい。“まとも”な労働組合であれば、むしろ労働者の正当な権利を理解する専門家として社労士の同席を歓迎するはずである。
「社労士の団交臨席にどう反応するか」によって、労働組合の“程度”が量れそうだ(とは言い過ぎだろうか)。
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