「食欲の秋」そして「天高く馬肥ゆる秋」。
ところで、「肥満の従業員に対し、会社は何らかの対応をすることができるか」という質問を受けることがある。
もしかしたら、このような疑問を持つ経営者は「度を越した肥満の従業員を解雇したい」と考えているのかも知れないので、まず、「解雇できるか」について考えることとする。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でなければ無効(労働契約法第16条)とされているところ、(海外のことは分からないが)日本では、通常、太っている(または太った)ことは解雇の合理的理由にはなりえない。容姿を重視するような職種に就く者であったなら、会社の立場からは一応は解雇の「合理性」に関しては主張できるとしても、「相当性」に関してまでクリアするのはかなりハードルが高いと言える。会社が配置転換等の解雇回避努力を尽くしたかも問われることになろう。
しかし、その肥満が労務の提供ができないほどであったなら、話は変わってくる。その場合は、就業規則が定める基準に則って解雇を考えざるを得ないだろう。とは言っても、予め適切な指導と一定の猶予期間(休職制度のある会社では、それの利用も)を与えることが必須であるし、このケースにおいても配置転換による職務軽減等を検討しなければならない。
いずれにしても、経営者としては、「肥満だけを理由としては解雇できない」と理解しておく必要があるだろう。
では、肥満の従業員に「やせるように。」と指導することはできるのだろうか。
これも、そんなに簡単な話ではない。容姿に関して話題にするのはセクシャルハラスメントととられかねないからだ。
某ファッションブランドの日本法人における「容姿に関する発言を含む嫌がらせがあった」と報道機関に公表したことを理由とした解雇は、裁判所には認められた(東京地判H24.10.26)ものの、ブランドに大きなダメージを受けたことは記憶に新しい。
従業員への指導に関しては、会社(上司)の主観ではなく、定期健康診断の結果に基づいて、「特定健診」および「保健指導」の受診を事務的に勧めるのが良いだろう。また、一次健診で「血圧」、「血中脂質」、「血糖」、「肥満度」の4項目すべてについて「異常の所見あり」と診断された労働者(脳・心臓疾患の症状を現に有していないものに限る)は、労災保険の「二次健診給付」(現物給付=無料で受診できる)が受けられる。これを使えば本人にも会社にも特段の負担が掛からないので、要件に該当しているなら、活用しない手は無い。
しかし、そうは言うものの、従業員の健康管理に関しては、事業主もその責任の一端を担っているとの認識も必要だ。
某大手コンビニチェーンにおいて社長自身がCHO(最高健康責任者)に就任し「肥満の社員の割合を減らす」などの健康対策を打ち出したことも、そうした取り組みの一つとして期待を込めるとともに、従業員の反応を含めた効果の程を注視していたい。
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