「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の改正により、常時300人を超える従業員を雇用する企業は、今年(令和3年)4月から、中途採用者の比率を公表しなければならないこととされた。
この「中途採用」とは、新規学卒者を4月または3月に入社させるために行う、いわゆる「新規学卒採用」でないものを言う。 この定義自体は常識的に理解できるところだが、国が推し進めようとしている「中途採用」は、一般企業がイメージする、もしくは期待するそれとは少し意味合いが異なる点には注意を要する。
労働政策研究・研修機構(JILPT)による「企業の多様な採用に関する調査」(平成29年12月26日)によれば、「新規学卒採用と中途採用とのどちらに重点を置いているか」との問いに対して、新規学卒採用に重点を置く企業が33.2%、中途採用に重点を置く企業が27.4%、両者ほぼ同じ程度が32.0%と、採用担当者の意識の上では概ね三分されている。
その一方で、同じ調査で、“勤務開始時期”を「4月又は3月の定められた日のみ」と回答した企業は81.5%に上っていて、「春季採用」に偏っている現状も見える。
※)労働政策研究・研修機構「企業の多様な採用に関する調査」(平成29年12月26日)
→ https://www.jil.go.jp/press/documents/20171226b.pdf
国は、この「春季採用」から「秋季採用」や「通年採用」に重点を移せないか、を検討課題としている。 つまり、卒業までに就職が決まらなかった既卒者や、留学して帰国した者や、入社直後に離職した者等の受け皿を企業に用意させたいのだ。
しかし、企業の側は、新規学卒者を一括採用して自社内で育てることを基本に据え、中途採用では欠員の補充や新規事業への参入等のため即戦力を求めるのが一般的だ。
このあたりに、国の目論見と一般企業の認識との齟齬がある。
とは言え、新規学卒者を4月(または3月)から採用することは、学校を卒業して失業を経ずに就職させることができ、また、「社会人として教育する」という企業の社会的存在意義の一つを果たしてもいる。
そして、このような雇用慣行は、企業経営者だけでなく、学校関係者を含む社会一般での“常識”として、根付いている。
もっとも、国もまだ模索中のようであり、そのような状況の中で、今般の「中途採用比率の公表義務づけ」が課されたととらえることもできそうだ。
ただ、大きな流れとしては日本的な雇用慣行を見直すべき時期になってきたのは事実と言える。 企業経営者には、従来のやり方に拘泥することなく、柔軟に考える姿勢が求められよう。
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