従業員から、複数の銀行口座への給与振り込みを求められることがある。
理由はいくつかあるが、代表的なものでは、「住宅ローン等の返済」、「貯蓄用」、「家計費」、「小遣い」といった用途ごとに設けた口座に、給与の一定額(またはその残額)を振り込んでほしいというものが多い。
さて、こうした要望があった場合、会社はこれに応じなければならないのだろうか。
結論として、これに応じる義務は無い。
そもそも、給与は、通貨(=現金)で支払うべきことを原則とする(労働基準法第24条)。 ただし、「当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金または貯金への振込み」も“できる”(労働基準法施行規則第7条の2)。 そして、その金融機関については、「一行、一社に限定せず複数とする等労働者の便宜に十分配慮して定めること」とされている(平10・9・10基発530号、平13・2・2基発54号、平19・9・30基発0930001号)。
誤解されがちだが、この行政通達の言う「一行、一社に限定せず」というのは、「会社が特定の金融機関を指定してはならない」という意味であって、複数口座への振り込みを義務づけるものではない。
したがって、会社は、複数の選択肢から従業員が希望するいずれか1か所への振り込みに応じれば足りる。
しかしながら、複数の銀行口座へ振り込んではいけないわけでもない。
「労働者の便宜に十分配慮」という面から見れば、そのほうが望ましいとすら言える。
ただ、その場合でも、振込手数料を差し引いて支払うことは許されない(同法第24条;賃金の全額払い)ので、振込先が増える分、会社のコストアップになることは承知しておかなければならない。 仮に複数口座への給与振り込みを希望する従業員から「2口座目への振込手数料は本人が負担する」との一筆を取ったとしても、労働基準法に反する労働契約は無効とされる(同法第13条)ので無意味だ。
また、複数口座への振り込みを1人に認めれば、他の従業員も追従することは想像に難くない。 そうした場合、振込手数料のコストとともに、担当者の労力やミス・トラブルのリスクも高まることに気を付けたい。
今、厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)では、賃金のデジタルマネー払いを可能とする法整備を検討中だ。
会社としては、「労働者の便宜」と「コスト・労力等」とを比較考量したうえで、給与の振り込み方法について考えておく必要があるだろう。
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