会社の役員(取締役・監査役等)は、業務中に負傷しても、原則として労働者災害補償保険(以下、「労災保険」と略す)で補償されない。
従業員兼務役員であれば労働者としての業務にも従事しているのでその部分については労災保険が適用されるが、従業員身分を兼務しない役員は労働者ではないので労働者を保護するための法令が適用されないのは当然ではある。
会社役員でも労災保険に加入できる「第1種特別加入」という制度はあるものの、その対象は中小事業主(※)に限られる。
※中小事業主と認められる企業規模
a)金融業・保険業・不動産業・小売業 … 50人以下
b)卸売業・サービス業 … 100人以下
c)その他 … 300人以下
さて、これを踏まえたうえで、自社の従業員を他社(多くはグループ会社)の役員として出向させるケースについて考えてみることにする。
出向先で役員に就任する場合、労災保険は適用されない。 役員として出向しながら出向先の従業員を兼務することは(違法ではないし可能性がゼロでもないが)ごく稀なケースなので、ここでは考えないこととする。
ちなみに、雇用保険に関しては出向元で(従業員として)賃金を支払う場合は出向元の労働者として雇用保険の被保険者となるが、労災保険に関しては賃金の支払い者にかかわらず“出向先”での適用となるところ、出向先においては労働者ではないので被保険者とならないのだ。
出向先が中小事業主に該当するなら上に挙げた「第1種特別加入」を考えてもよいが、「労働保険事務組合に事務委託しなければならない」等の要件があり、それは出向先の労務管理を変えることにもなるので、メリット・デメリットを慎重に検討してから結論を出すべきだろう。
もちろん、民間保険会社の生命保険・傷害保険等を掛けておくのも有効な策となりうる。 しかし、国が管掌している労災保険と比較すると、納付する保険料と補償される給付内容の費用対効果面でどうしても見劣りしてしまう。 また、「労災上乗せ保険」も労災保険で補償されない事故はカバーしないので、その点にも注意したい。
そうは言うものの、「労災保険の対象とならないから出向先で役員にさせない」というのは、本末転倒だ。
これは自社内で役員に就任させるケースでも同じだが、身分や役割を決めるのが優先であるべきであって、労災保険の対象から外れるか否かは“参考程度”に考慮するべきものと言えよう。
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